精神病の薬をやめる人が増えている。
精神医療の専門記者、エレン・バリーさんが新しい記事を書きました。うつや双極性障害などで薬を服用してきた人が、ネット上でつながり、仲間の支援、ピアサポートを受けながら薬をやめる動きが広がっています(Leading a Movement Away From Psychiatric Medication. By Ellen Barry. March 17, 2025. The New York Times)。

記事の中心は、ローラ・デラノさんという双極性障害の「元患者」です。13歳から27歳まで“プロの精神病患者”で、19種類の薬を服用していました。ハーバード大学卒の秀才でスカッシュの名選手でもある。
彼女は27歳で、考え方を劇的に変えたといいます。
「私は病気だから治療を受けたのではなく、治療を受けたから病気になったのではないか」

『Unshrunk: A Story of Psychiatric Treatment Resistance』
転換をもたらしたのは、『なぜ精神病は増えるのか』という本でした。ジャーナリストのロバート・ウィテイカーさんが書いた衝撃的な本で、アメリカの製薬企業が精神病の薬を売るために過剰な診断をあおってきたと告発しています。デラノさんは、自分も製薬企業の金もうけの対象だったと理解するようになりました。
精神科医と相談し、6か月の期間をかけ、それまで飲んでいた5種類の薬をすべてやめています。やめたあとは、まるで夜が明けたようだった。
「その瞬間、私は精神科の患者であることをやめました」
デラノさんはその後、夫とともに非営利団体ICI(Inner Compass Initiative)を作って、精神病の薬を減らすか中止したいという患者の支援活動をはじめました。
「過激かもしれませんね。かなりの人が危ないと思うでしょう。でもこれが、何万もの人が理解した現実なんです。いまの状況から抜け出すためには精神科にかかれば救われるなんて考えは捨てた方がいい」

(Credit: Norgine Ltd, Openverse)
バリー記者の記事は、だからみんないますぐ薬をやめようというトーンではありません。
この記事には逃してはならないポイントが二つあるので、つけ加えましょう。
ひとつは、薬をやめる動きは統合失調症以外の分野で広がっていること。統合失調症はいまなお抗精神病薬が唯一の治療手段だとバリー記者は指摘しています(ぼくは異論があるけれど、いまそれはおいておきましょう)。
もうひとつは、断薬、減薬は医師か看護師に相談しながら進めることです。まちがって断薬を進めると、再発や極端な場合は自殺のおそれもあるので。
こうした動きに共鳴する精神科医も各地に現れています。精神医療の核心部分に、患者、当事者が変容を迫っているといえるでしょう。
(2025年3月19日)