菌糸の夢

 そんなの知らなかったー。
 思わずうなってしまいました。地球上の生物は動物と植物だけじゃない。もうひとつ、「菌類」ってのがあるんですね。若者にとっては常識だったんだろうか?
 菌類って、細菌じゃありません。カビやキノコのことです。それ、植物の一種だとばかり思ってたら、いまはそうではない。動物でも植物でもない、別の分類になっている。
 だから全生物は、動物、植物、菌類の3つ。
(ほかに細菌もあるので5つや8つの「界」に分類する説もあるけれど、この際省略)

 その菌類、具体的にはキノコや、キノコの本体である菌糸が未来を変えるという特集記事がありました(Mushrooms are the darling of sustainability. Oct. 1, 2024. The Washington Post)。

 キノコ人気はだいぶ前からの現象だと思ったけれど、それは食用や自然療法の分野。いまのブームは主として工業用です。
 ベンチャー企業のひとつ、マイコワークス社の創設者、フィル・ロスさんは、キノコは第4の産業革命だといいます。ちょっと大げさに聞こえるけれど、キノコや菌糸を加工すれば、アパレルの素材や包装、家具、建築材料にもなる。2020年代末まで世界の菌糸市場は58億ドル規模になるという予測もあります。

 菌糸というのは、キノコを縦に裂いたときに見られる繊維のようなもので、これを新しい技術で加工すれば、綿や絹、革のようにもできる。プラスチックに代わる高級素材として、酒瓶を入れる化粧箱や高級ブランドの服地、レザー、車の内装にも使われるようになりました。

シイタケを裂くと見える菌糸の束
(日本菌学会パンフレットより)

「これ、プラスチックじゃありません。キノコでできてるんです」といえば、ほお、いいねという消費者は多い。
 だからキノコ素材は、エルメスやキャデラックなんていうブランドも取り入れている。
 キノコの強みはなんといっても使用後は自然に還ること。キノコ製の棺桶なんていうのもあり、オランダのメーカーが埋葬すれば遺体とともに土に還元されますといって販売している。

 新しい分野にはすでに多くのベンチャー企業が参入しています。
 キノコは広い農場を必要とせず、成長が早く、二酸化炭素発生がもっとも少ない農産物。でも最先端のマテリアルということで、いまやシリコン・バレーが中心地のひとつになっている。
 地球や気候、環境問題に敏感な消費者にとって、キノコ・菌糸系はこれからますます魅力的な素材になるでしょう。

 ぼくは地球環境のためにパタゴニアを着ると胸を張っていたけれど、これからはキノコの服を着たい。残念ながら身のまわりにまだそういう製品がないし、もしあっても高くて手が出ないかもしれないけれど。
(2024年10月11日)