黒いトマト

 イタリア産トマトが、じつは中国産だった。
 こんなBBCの調査報道がありました。さては、と思えば案の定、中国ウイグル産のトマト。民族圧殺の憂き目にあっているウイグル族の血と涙が、イタリア産という優美なイメージに隠されてヨーロッパに出回っています(‘Italian’ purees likely to contain Chinese forced-labour tomatoes, BBC finds. Dec. 1, 2024. BBC)。

 イタリア産トマトピューレーやトマトペーストは、3年前にも中国産だと報道がありました。裁判が起こされたけれど法定外の調停で決着、事実関係は不明のままです。
 今回BBCは、中国産トマトがヨーロッパに輸送されるルートを徹底的に調べています。イタリア企業にニセの取引を持ちかけ、「中国産トマトを使っている」との証言もえている。さらに記者が身分をいつわってイタリアの工場に就職し、隠しカメラでの記録までしています。

 その結果、イギリスで販売されている「イタリア産」トマトピューレーやトマトペーストは64品目あるけれど、17品目は中国産トマトを使っている疑いが強いということです。
 取材の過程で頻繁に出てくるのがアントニオ・ペッティという企業でした。

 中国は世界のトマトの3分の1を生産し、そのほとんどはウイグルで作られます。生産を支えているのはウイグル族の奴隷労働で、BBCがえた証言によれば、収容所に拘束されているウイグル労働者は1日650キロのトマト収穫がノルマ、達成できなければ電気ショックや殴打の暴行を受けます。
 闇のなかで作られたウイグル産トマトは、貨物列車で中央アジアのカザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージアを経てイタリアに出荷されていました。

ウイグル民族旗(東トルキスタン”国旗”)

 いまやヨーロッパでは、誰も中国産トマトを買わないといわれる。
 企業のなかには、安い中国トマトでピューレーやペーストを作りイタリア産と見せて売るものがある。こうした偽装販売に対しEUは規制を強めているけれど、規制が遅れているイギリスは奴隷労働による製品の「投げ捨て地」だという批判もあります。
 けれど、真の問題は偽装より「安さ」だと人権団体の関係者はいいます。
「安い製品があったら疑問に思わなければならない。この背後には何があるのか。本当の価格は何か、誰がそれを負担しているのか」

 久しぶりのBBC「ウイグル報道」でした。
 中国政府の厚い秘密の壁に隠され、さすがのBBCもウイグル族の悲惨を報道できなくなった。でもあきらめているわけではないとこの報道で示しています。
 中国や北朝鮮の人権弾圧に手をかえ品をかえ迫ろうとするBBCと、BBCを支えるイギリス政府にささやかながら声援を送りたい。
(2024年12月4日)