5倍も高い牛肉

 価格破壊、などということばが登場したのは30年ほど前です。
 衣服や食品の値段が一気に下がる。消費者としてはありがたいけれど、ありがたさの裏には闇があると、いまではだんだんわかってきました。人権無視の低賃金や過酷な労働。驚くほど安いバナナやアパレルの陰には、途上国の悲惨や組織犯罪がある。
 安さは、あやしい。
 その感覚を、途上国だけでなく、地球環境の害についても向けなければなりません(The Hidden Environmental Costs of Food. Sept. 19, 2024. The New York Times)。

 ということで、オランダの非営利団体、TP(トルー・プライス)や国連の研究機関などが、食品の「ほんとうの価格」を算出する研究を進めています。
 たとえば牛肉生産は、自然林を牧場に変え、メタンガスや糞を排出し、地下水を汲みあげて地球環境に多大な損害を与える。それらのコストを牛肉価格に反映させようという試みです。TP方式の試算だと、食品の「ほんとうの価格」は次のようになります。

・牛肉
 市販価格は1ポンドあたり5ドル35セント。でも牛肉1ポンドを生産するには、22ドル2セントの環境コストがかかる。だから牛肉の「ほんとうの価格」は1ポンド27ドル36セント。市販価格の5倍です。
・チーズ
 市販価格は3ドル74セント。ほんとうの価格は7ドル50セント。ほぼ2倍です。
・鶏肉
 小売価格2ドル20セント。ほんとうの価格は4ドル3セント。2倍弱。

 これに対して大豆などの植物性タンパクははるかに環境負荷が少ない。
・豆腐の市販価格は2ドル42セント。ほんとうの価格は2ドル63セント。
 大豆食品は肉類よりはるかに環境負荷が少ない。地球に害を与えず、温暖化も進めない。

 こうした試算を進めているのは、実際に食品の価格を上げるべきだという意味ではないと研究者はいいます。ぼくらの食べているものがどれほど環境に負荷を与えているか、それを価格というわかりやすい形で示すことに意味がある。
 環境を考えたら、牛肉の価格はいまの5倍にもなるということ。
 そう考えると、もしかしたら牛肉の消費は減るかもしれない。あるいは消費者はおなじ肉でも牛から豚、鶏へと変わるかもしれない。大豆やヒヨコ豆などの植物性タンパクに変わればもっと地球は助かる。
 ぼくらが暮らしているのはそういう時代であり、そういう地球環境だということです。
(2024年10月3日)