AIで失業したら

 しばらく前に、AIの登場で失業しないためには、1)創造的な仕事、2)高度な人間関係にかかわる仕事、3)トレードジョブ(修理屋、便利屋)がいい、と書きました(5月10日)。そうしたらほんとにAIのせいで失職し、修理工になる人が出てきたという記事がありました。AIの衝撃はすでに現実のものになっているようです(ChatGPT took their jobs. Now they walk dogs and fix air conditioners. June 2, 2023. The Washington Post)。

“AI失業”を経験しているのは、イリノイ州のコピーライター、エリック・フェインさん34歳です。
 フェインさんはこの10年、およそ10の企業と契約し、風呂場のマットからマリファナの加工品まで、どんな商品でも依頼があればセールスに役立つ魅力的なコピー(説明宣伝文)を作ってきました。1時間に60ドルをかせぎ、家族3人が十分に食べていけた。
 ところが3月以降、どんどん仕事がなくなってしまった。最新のAI、チャットGPTがフェインさんの代わりにコピーを書き出したからです。
 これでは食っていけないと、フェインさんは転職を試みています。いま空調技術者の研修コースを受講中で、来年は配管工の技術も覚え、修理業者になろうとしています。
「手仕事の方が、将来安全だから」

 もうひとり紹介されていたオリビア・リプキンさん25歳も、やはりコピーライターでした。サンフランシスコの企業で働いていたけれど、チャットGPTの登場で仕事がなくなり、4月に解雇されました。理由は明白です。コピーライターよりチャットGPTの方が安いから。
「私はAIで職を失いました」
 リプキンさんは、犬の散歩を仕事にしようと考えています。たしかに、そういう仕事ならAIに奪われることはない。いまのところは。

 AIが登場するまで、コピーライターのような“高度な仕事”は機械にはできないとされていました。それがいまはコピーライターだけでなく、大量の文書の翻訳やまとめ、判例の検索など、「高学歴でなければできない」仕事が次々AIに奪われています。

 こうしたAIの進出でひとつ驚いたのは、AIを摂食障害のヘルプライン(相談事業)に活用した団体があったことでした。おそらく過食や拒食の相談に文章で答えるしくみだったのでしょう。相談スタッフを減らし、経費を節減するすためにAIを使った。でもAIが「配慮にかけた有害なアドバイス」をしたことがわかり、このAI相談は中止されたそうです。当然でしょう。
 AIは人間全体を統計と確率に変えることは得意だけれど、ひとりの人間の悩みに向き合うことはできない。
 AIがネガティブな形で使われたひとつの極端な例だったようです。
(2023年6月9日)