プーチンの戦争

 特集「プーチンの戦争」は、ニューヨーク・タイムズによるウクライナ戦争の総括です。
 あくまでいまの時点でのまとめですが、これを読むとウクライナ戦争の実情がわかるだけでなく、この戦争をどう見ればいいかも、これまでよりよくわかるようになります(Putin’s War. December 17, 2022, The New York Times)。

特集を伝えるニューヨーク・タイムズ特集
「プーチンの戦争」スクリーンショット

 長文の特集は、冒頭の一文がすべてを象徴していました。ロシア兵が持っていたとされる狙撃銃の使い方を解説したプリントがあり、その上にこんな記述がかぶさっています。
「ロシアの兵隊は食料も弾薬もないまま戦地に向かう。自分の武器の使い方もわからず、ウィキペディアで調べるありさまだった」
 9月以降に徴兵されたロシア兵は、まともな軍事訓練を受けていませんでした。それがどれほどひどかったかが、「ウィキペディアで調べていた」に表れています。自分の武器の使い方をネットで調べるなんて、冗談としかいいようのない話です。

 かつてぼくがアフリカの内線を取材していたとき、兵士はどこでも「AD厳禁!」といわれていたものです。AD(アクシデンタル・デスチャージ)は、誤って銃を暴発させること。そんな事故は絶対起こしてはならない。武器は人のいのちを奪える道具で、家電製品ではない。その扱い方をネットの文書に任せるなんて、ロシアがどれほど軍事訓練をおろそかにしているかの証左でしょう。それはすなわち、兵士の命をそこまで軽く見ていることでもある。

 ウィキペディア以外にも、ロシア軍のひどさが列挙されています。自軍を砲撃するロシア軍戦車、誤爆する戦闘機、敵を補足しながら砲撃の許可に時間がかかり逃してしまう指揮系統、無線を傍受されウクライナ軍に爆撃される部隊。さらには捕獲された証拠から、ロシア軍は60年前のウクライナの地図を使っていたこともわかりました。上意下達で硬直したロシア軍が、状況に応じて戦術を変える敏捷なウクライナ軍にほんろうされ、多大な被害を出した例がいくつも含まれていました。

 なるほど、これではウクライナ軍に勝てるわけがない。
 しかし同時にわかるのは、そういうロシア軍が開戦以来ずっと変わっていないことです。変わりたくても変われない。なぜならプーチン大統領の軍隊だから。そして「プーチンの戦争」は終わるきざしを見せません。

 タイムズ紙は特集のなかでこう書いています。
「プーチンを知る人は、彼はどれだけ犠牲や損害が出ても、どれだけ年月がかかっても意に介しないといっている。ロシア側は先月アメリカ側と会談したとき、バイデン大統領に伝えたいといっていた。ロシアはロシア兵がどれだけ死のうがあきらめることはないと」
 おそるべき専制国家の姿。あわれなのは、何も知らずに戦場に向かうロシア兵です。
(2022年12月20日)