依存症から抜け出すためには、ハームリダクションのほかにもうひとつの道があるのかもしれない。
そう思ったのは、「クラフト」というアプローチを知ったからでした。クラフトは英語の略称で、CRAFT(community reinforcement and family training)、「コミュニティ強化と家族の訓練」という意味のプログラムです(How Do You Get People Into Addiction Treatment if They Don’t Want It? By David Sheff. April 12, 2023. The New York Times)。
ぼくがかねてから書いてきたハームリダクションは、依存症から抜け出すためには「ダメ、絶対ダメ!」というような処罰と強制は効果がなく、本人の自律性を尊重しなければならないということでした。かつて麻薬依存だったマイア・サラヴィッツさんの主張を、これまで何度か紹介しています(2022年12月2日ほか)。
一方クラフトは、本人が自主的に治療を受けないときは強制もやむをえないと考えます。ここで「強制」と聞くと、ハームリダクションを進める人たちは身構えるでしょう。そら来た、あのオッサン的思考だよと。でも、ぼくはそうともいえないと思いました。
クラフトを紹介する作家のデビッド・シェフさんは、息子が10年もの長期間、重度の薬物依存だったといいます。
「私は彼が21歳までは生きないだろうと恐れていた。その彼が薬を断ち11年になる。いま40歳になった」
息子は警察に捕まり、リハビリを強制されることになりました。
「強制的な治療が否定的に見られるのは理解できる。強制路線は薬物との戦いで、かつて破滅的な結果を招いたから。けれどいまのような薬物の供給状況を見れば、身近に薬物依存の家族がいる人は追い詰められ、決断を迫られる。家族を死なせてもいいのかと」
死なせるより強制。それが家族の判断でした。いまは息子自身もその判断に納得している。
とはいえシェフさんは、「強制」は決して処罰と脅迫であってはならないといいます。
「これまでのやり方は、依存症は“行くところまで行かなければ治療に入れない”というものだった。古くて危険な理論だ。行くところまで行く前に多くの人が死んでしまう。われわれは介入しなければならない。実証された方法で彼らを回復プログラムにつなげなければならない。介入がうまくいかなかったらくり返すことだ。それでもうまくいかなかったら、さらにくり返すことだ。生きているかぎり希望はあるのだから」
ハームリダクションとクラフトは、自主性と強制、待機と介入のちがいのようにも見えます。でも依存症の世界は、そんなふうに白黒くっきりと分割できるものではない。
そのことをさらに考えてみます。
(2023年5月11日)