AIの独占を許すな

 AIの登場は「文字の発明以来の大変動」だと、ぼくはこのブログに書きました(2月17日)。でもグーグルのピチャイ社長は、人類が「火」を使うようになって以来の変革だともいっている(6月11日、NYT)。
 世紀の大発見なんてもんじゃないんですね。文明の転換、それを境に新人類と旧人類が分かれるような分岐点。それがAIの登場じゃないか。

 それほどの大変動を的確に見通せる人はいません。でもいま起きていることが何か、考える手がかりはある。MIT、マサチューセッツ工科大学の二人の教授のオピニオンを読んでそう思いました。これだけの大学のこれだけの知識人が論じるなら、読む価値はあります(Big Tech Is Bad. Big A.I. Will Be Worse. By Daron Acemoglu and Simon Johnson. June 9, 2023. The New York Times)。

「AIがわれわれを支配する未来を、マイクロソフトとグーグルが握ろうとしている。よくないニュースだ。歴史を見れば、情報を独占したものが政治的にも経済的にも抑圧者になる。対策を取らなければ歴史はくり返されるだろう」
 MITのダロン・アシモグル教授とサイモン・ジョンソン教授は、こんなふうに書き出し、巨大企業2社の独占体制を警告しています。
「古代メソポタミアでは文字を書くものが支配者だった。中世ヨーロッパでは聖職者と貴族が書物を独占し、地位と合法性を獲得した」
 21世紀の地球ではAIを作るものが支配者になる。それをマイクロソフトとグーグルに独占させてはならない。

 ではどうすればいいか。
 二人の教授はさまざまに論じているけれど、印象的だったのは、「議会はわれわれ一人ひとりのデータを守らなければならない。それこそがAIの力の源だからだ」という主張でした。
 AIは全ネット空間から巨大な情報を集め、そこから力を得ている。でももとはといえば、情報というのはぼくらひとりひとりがネット上に出しているテキストであり、チャットであり、映像です。それを勝手に使うなよ、使うなら対価として使い方を公開しろ、それによって得た利益を社会に還元しろ、ということです。

 とはいえ、AIの透明性の確保や社会還元はどう進めるか、またそれ以前に、政治はぼくら一人ひとりのデータを保護できるか、AIに対する民主的な規制を考えることはできるのか、そこには複雑きわまりない議論が生まれます。でもそもそものはじまりで、「AIって、もともとはぼくらの情報なんだぜ」という認識は大事でしょう。それこそが、AIに対してぼくらが自分自身をエンパワーできる起点なのだから。
(2023年6月13日)