殺すか駆除か

 鳥を守るために、ネズミを殺す。
 1匹2匹ではない、国中のネズミすべてを撲滅するというのです。いやこの際、「殺す」とか「撲滅」といってはいけない、「駆除」ですね。絶滅に瀕した野鳥をネズミから守るためだから。ニュージーランドの壮大な冒険です(New Zealand seeks to exterminate predators to save native birds. June 26, 2023. BBC)。

 ニュージーランドには、空を飛べない鳥がたくさんいます。いちばん有名なのがキウィ、そのほかにもタカヘとかウェカとか、いろいろなのがいます。8千500万年前に大陸から離れて島になったニュージーランドには哺乳動物がいなかった。鳥はが天敵を逃れて飛ぶ必要がなく、多くが地上で暮らすようになりました。

キウィ

 この鳥の楽園に13世紀、ポリネシア人がやってきた。500年後には白人も、ネズミやイタチもやってきた。飛べない鳥はたちまち取りつくされ、食べつくされました。人間が来てから、ニュージーランドの固有種は3分の1が消滅したとされます。わずかな種が離島で生き残りました。
 キウィなど飛べない鳥を保護する動きは、1960年代にはじまりました。それが一気に高まったのは、2000年代になり赤外線カメラができてからです。夜間のネズミの行動が捉えられ、野鳥の卵や雛が襲われる衝撃の場面が映像で広がった。こういう天敵のせいで、ニュージーランドでは年間2千600万羽の鳥の命が失われている。専門家の指摘に多くの市民が立ちあがりました。ネズミを駆除せよ。

「地面の鳥」を守るサンクチュアリが各地で設立されました。
 もっとも有名なのが、北島のウェリントンにあるミラマー半島でしょう。ここでは2016年、市中心部と半島を区切る延長8キロのフェンスが完成しました。フェンスの向こう側では徹底したネズミの駆除が行われています。

 無数のワナが設置され、それをたくさんのボランティアがチェックしてスマホに入力する。一匹でもネズミが見つかれば、その一帯に集中してワナと毒の餌を仕掛ける。こうした作戦でネズミはほとんどいなくなり、多くの野鳥が復活しています。ことにこの5年、姿を消していた鳥の姿がもどったことに地元住民も気づくようになりました。

 ニュージーランドは、2050年までに全土からネズミを駆除するという壮大な目標を掲げています。技術的にも経済的にも、実現できるかどうかわからない。でも多くの国民は、いまは野鳥復活に熱心でネズミを殺すのもやむをえないと考えている。その熱意の前に、ぜんぶ殺すなんて、そこまでしなくてもいい、ほどほどに共存すればいいじゃないかという批判派の声はかき消されています。
 ここで、ネズミがんばれ、なんていっちゃいけないんだろうな。
(2023年6月29日)