認知戦争

 ディスインフォメーション、情報操作のいちばんホットな舞台のひとつが台湾です。
 来年1月に迫った総統選挙を控え、台湾には中国から激しい情報攻撃が行われている。これを迎え撃つ台湾の人びとはとてもセンスがいいと思いました(Can Taiwan Continue to Fight Off Chinese Disinformation? Nov. 26, 2023. The New York Times)。

 台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は、「台湾自立」を唱える中国の天敵です。その後継者として立候補した頼清徳(ライチントー)氏を、中国はなんとしても落選させたい。代わりに中国との有効を唱える候補を当選させるべく、大量の偽情報をばらまいているといわれます。そのひとつとして出回っているビデオがありました。
 蔡英文総統が、デジタル通貨によるいかがわしい投資を奨励している。本人の顔と声の動画だから、うっかりするとだまされます。台湾の捜査当局は、これは中国がAIを使ってしかけた「ディープフェイク」のひとつと見ています。

オードリータン・台湾デジタル相
(Credit: Audrey Tang, Openverse)

 台湾政府のオードリータン・デジタル相は偽情報についていいます。
「恐怖、不安、猜疑心をかきたてる新たな脅威に、新たな対策を立てること。いかに敏捷に対抗するかが肝です」
 情報リテラシーを進める市民団体、「フェイク・ニュース・クリーナー」のメロディシー代表は、台湾人は長年の中国による情報攻撃で、疑わしい話には“こころで警鐘を鳴らす”感覚を発達させたといいます。
「いまはみんな立ち止まって考える。これっておかしいよね、ヘンだから調べてみたいんだけど、というようになった」
 前回の総統選では、あまりなかった傾向です。彼女のグループは大学や地域社会で偽情報に対抗するための講座を、22人の講師と160人のボランティアでつづけている。ネット上でもリアル社会でも、そうした活動を展開するグループがいくつも出てきました。

 ぼくが感心したのは、台湾政府がこれを情報戦争ではなく「認知戦争 cognitive warfare」と呼んでいることです。
 情報が虚か実かが問題なのではない。情報を前に、それをどう認知するか、あなたの頭がそれに対してどう働いているかが問題なのだという捉え方です。すばらしい。そこまで台湾市民の情報リテラシーは進んでいるということでしょう。

「ウワサよりユーモア humor over rumor」という運動もあります。ジョークを交え、キャラクターを使っておもしろおかしくウワサ、偽情報を解読する。そういう形でリテラシーを身に付けようというのは、なんとセンスのいい対応だろうか。そういう賢さ、したたかさを乗り越え、中国の闇勢力が台湾社会を攻撃し、政府不信をあおるのはなかなかたいへんなことにちがいありません。
(2023年12月7日)