あのカリフォルニアも、保守化が進んでいるのか。
そんな懸念を抱いたのは、3月にあったひとつの住民投票を見てのことです。
ホームレスとその精神保健に、思いきった対策をと提案されたカリフォルニア州の「住民投票1号」が、賛成50.2%、反対49.8%で可決されました。楽勝のはずが大接戦だったのです。カリフォルニアもホームレスや精神に寛容ではなくなったということでしょうか(March 10, 19, 30, 2024. The New York Times)
住民投票1号は、カリフォルニアのホームレスと彼らの精神保健に、起債と法改正、富裕層への増税などで約64億ドル、1兆円近くをかけようという選択の是非を問うものでした。ニューサム知事の提案は、悪化する一方の事態を思いきって切り開く施策になるはずでした。
これが通れば、ホームレスで精神疾患のある人や薬物依存症の対策、治療が進み、1万1千人の住居が確保されるはずでした。彼らの多くがいまは刑務所に入っているけれど、対策が進めば社会復帰も進み、最終的には刑務所を維持するより州民の負担はずっと少なくてすむというのが知事の言い分でした。
一般住民にしてみれば自分のふところが痛むわけではなく、ホームレス対策は進むということで、住民投票は大差で可決されるはずだった。ところが賛否は拮抗、開票に手間どり、結果が出るまでに3週間以上かかる異例の事態です。州当局者も、これほど反対が強いとは予想していなかった。
反対派が指摘するのは、これまで州政府はホームレス対策に何百億ドルも使ってきたけれど、問題はいっこうに解決されなかったということです。長年つづく混乱に「ホームレスや精神は、もうイヤだ」という「疲れ」感情が住民のなかには強い。そのせいでしょう、投票率は低く、州の登録有権者2千2百万のうち、投票したのは4分の1だったといいます。保守共和党の投票率が高かったことも接戦の原因とみられている。
ぼくはカリフォルニアの動きを、現状ではもっとも革新的なホームレス対策、精神保健対策のひとつと思って見てきました。もちろん世界的にはもっと進んだ試みがたくさんあります。イギリスの「リンクハウス」、マサチューセッツ州の「アフィヤ・ハウス」など、WHOも称賛する実践例をこのブログでも書いています(2023年5月23日)。しかしカリフォルニア州ほどの規模で、全住民の意思を問いながら進める精神保健対策はほかに例がない(表面上はホームレス対策だけれど、実態としてはこれは精神保健対策といえるでしょう)。「地域で進める精神保健」は新しい局面を迎えるのではないかと期待もしていました。
前途多難。でも反対の声が強いからこそ、議論しながら、失敗もしながら進めていくところに、「地域医療」のほんとうの意味があるのではないか。そんなふうにも思うのです。
(2024年4月2日)