ホーム突き落とし事件

 ニューヨークでまた地下鉄ホームからの突き落とし殺人が起きました。
 容疑者の24歳の男は、精神科に2度入院して治療を受けたことがあり、暴力行為や傷害事件の記録もある。これをどう見るか、考えこみます(Man Charged in Subway Shoving Had History of Mental Illness, Family Says. March 26, 2024. The New York Times)。

(Credit: WanderingtheWorld, Openverse)

 事件の骨格は、比較的明確です。
 3月25日夜、イーストハーレム駅のホームに立っていたジェイソン・ヴォルツさん54歳を、後ろから歩いてきたカールトン・マクファーソン容疑者24歳が線路上に突き落とした。ヴォルツさんは電車にはねられ即死です。
 マクファーソン容疑者は現場を立ち去ろうとたところを警察官に捕まりました。彼は16歳で暴力事件を起こし、去年10月にもシェルターの男性に襲いかかるなど、複数の暴力行為、犯罪の記録があります。
 母親によれば過去に少なくとも2回、入院して精神科の治療を受けている。住居だったアパートの住人は、容疑者がひとりでぶつぶついっているのをよく目撃しており、最近は「いっぱい問題を抱えていた」といっていました。

 事件後、ニューヨークのエリック・アダムス市長はいいました。
「誰かが重症の精神保健上の危機にあるとか、犯罪を犯そうとしていたら、やろうと思ったらできる状態なのだろうし、そうなれば制服警官がいても意味はない」
 回りくどい言い方だけれど、犯行は精神障害が関係しており、こういう突発的な犯罪はいくら警察官を配置しても防ぎきれないといいたいのでしょう。

 精神障害者が、市民を突然ホームから突き落として死亡させる。
 きわめて衝撃的な事件です。しかしニューヨーク・タイムズは冷静でした。精神障害者は病院か刑務所に閉じ込めておけといった反応は、きっとたくさんあるはずだのに伝えていない。そんなことをしても意味はないとわかっているからでしょう。
 おそらくこれから出てくるのは、日本のように駅のホームに柵とドアを設置しろという運動でしょう。しかしそれは目先の対策にすぎない。
 根本には、アメリカ全体が精神保健対策、精神医療をないがしろにしてきたという長年の歴史があります。そうなったのは、社会に広く精神障害に対する不寛容と偏見があるから。そこが変わらないかぎり事態がよくなることはありません。日本もアメリカもおなじでしょう。
 ぼく自身は、精神病は社会の鏡でもあるということを考えます。地下鉄ホームからの突き落としは、アメリカ社会に強まる一方の暴力性とどこかで結びつくのではないか。無責任な推測といわれればそれまでだけれど、そんな気がしてなりません。
(2024年3月29日)