SNSをめぐる論争がつづいています。
アメリカ保健行政のトップ、V・マーシー医務総監がSNSに強い警告を発し、SNSは若者の精神保健に有害というラベルを貼るべきだと提唱したことを書きました(6月20日)。これに賛否両論が起きています。SNSをめぐる議論の舞台は、科学から政治に変わろうとしています(Researchers Say Social Media Warning Is Too Broad. By Ellen Barry. June 19, 2024. The New York Times)。
若者や子どものSNS、ソーシャルメディアの使用を規制すべきだという議論は、親や教師のあいだで強い。しかしおおかたの科学者はこれに同調してはいない。SNSが若者の精神保健に有害かどうか、アメリカ心理学会のM・プリンスタインさんはいいます。
「現在のところ肯定とも否定とも結論はできない。どちらかといえば大勢は“ない”か、“あまりない”に近い」
とはいえ、ネット上で自傷行為を見る若者は、自傷行為に走りやすくなる。問題はネットの中身です。
「1日中見ているのがニューヨーク・タイムズだったら、話はちがう」
一律全面禁止ではなく、賢く使うこと。
でもどこをどう禁止するのか、どうすれば賢く使うことになるのか。
マーシー医務総監が「1日3時間以上SNSを使う若者は、うつや不安が倍増する」といっていることに対し、疑問をいだく科学者もいる。
カリフォルニア大学のキャンディス・オジャーズ教授はいいます。自分を含め、何百もの研究者がSNSと若者の精神疾患との関連を研究してきた、しかし両者のあいだの関係はわずかなものでしかなかった。SNSにばかりに注目していたら、若者の精神保健のほんとうの問題を見過ごしてしまう。
これは科学者としてはまっとうな主張でしょう。しかし科学者がまっとうな主張をしたからといって、そのとおりに社会が動くわけではない。行政部門にいるマーシー総監は、子どものSNSに困りはてた親たちが「どうすればいいか」と訴える声を聞きつづけてきました。そうした社会の動きを踏まえての今回の警告です。
最低限のラインは、SNS規制で生じる損害は、野放しにしたときの害にくらべればずっと小さいはずだという考え方でしょう。マーシー総監はインタビューでいっている。
「SNSに害がないとわかるまで、警告を表示していいのではないか」
害がないとわかったら、その時点で撤回すればいい。ここは科学より社会の大勢に従おうということです。健全な妥協ではないでしょうか。
若者は不満かもしれないけれど。
(2024年6月25日)