クルスクの陰影

 北朝鮮軍がしだいに本領を発揮しはじめている。
 ウクライナとロシアの戦争に投入された北朝鮮軍は、当初は戦闘に不慣れで多大な犠牲を出し、“笑いもの”にされているかのようでした。けれどしだいに戦場に適応しウクライナに圧をかけている。彼らは進化していると現場からの報道で感じました(Battles Rage Inside Russia, With Waves of Tanks, Drones and North Koreans. Jan. 13, 2025. The New York Times)。

 この戦争でずっとブレのない報道をしてきたマーク・サントラ記者の記事です。
 北朝鮮軍が投入されたのはロシア領のクルスク地区で、去年ウクライナ軍が攻勢に出た一帯です。激しい戦闘が5か月もつづいているけれど、いまだに500平方キロ、東京23区に近い面積のロシア領がウクライナ軍に占拠されている。

 プーチン大統領が反撃を厳命したからか、戦闘は近来になく激しくなっている。それが北朝鮮軍の登場でさらに激しくなったと指揮官はいいます。
「彼らは大人数で一斉に攻めてくる。こちらの戦線の弱い部分をさがして突破しようとする」
 実際に一部が突破され、ウクライナ軍は戦線の一部で後退せざるをえなかった。

 ウクライナに送られた北朝鮮軍は1万2千人、このうち1千人以上が死傷したといわれます。甚大な被害にもかかわらず北朝鮮軍は攻撃をくり返している。それで戦局が大きく動いた兆候はないけれど、犠牲をいとわず向かってくる北朝鮮兵はウクライナ軍にとって厄介な存在でしょう。ロシア軍は刑務所の囚人を募集し突撃部隊に仕立ててきたけれど、こんどは北朝鮮軍がその役割を引き受けているのかもしれない。

(資料映像)

 現地指揮官のひとりは、クルスクでの戦況は「これからどうなるかはわからない」といっています。
 勝つとはいっていない。どうなるかわからない。
 激しい戦闘は、トランプ政権発足を目前にしたウクライナの最後のふんばりだろうかと、記事を読みぼくは思いました。ウクライナなんてどうでもいいと思っているトランプ氏が登場すれば、アメリカの援助は止まり戦況は悪化する。いまここで最後の力を振り絞り、ロシアに最大限の抵抗を示すということだろうか。

 指揮官のひとりはいいます。ウクライナ軍は疲弊している、けれど戦うのをやめるわけにはいかない。
「やめたら、そこにあるのは死だけだ。それだけのことだ」
 戦争の激しさにもかかわらず、サントラ記者の記事はいつものように抑制がきいた、沈みこむようなものでした。現実ばなれしたトーンが、かえって戦場のリアルを伝えます。
(2025年1月15日)