DEIが消えかけています。
DEIは多様(Diversity)、公正(Equity)、包摂(Inclusion)のことで、黒人やLGBTQ、障害者など、マイノリティの社会参加を進める動きです。バイデン政権のもとで進んできたけれど、そのDEIがいまや“社会の敵”にされている(The D.E.I. Retreat Has Some Notable Holdouts. Jan. 22, 2025. The New York Times)。
右翼保守派はかねてから、DEIを白人多数派への逆差別と攻撃してきました。トランプ大統領は就任早々、DEIによる不当な差別を捜査するよう大統領令を出しています。
この動きを受け、学校や企業など、さまざまな分野でDEIの撤回がはじまりました。
ある調査によれば、DEI政策にもとづく雇用はことしになって93%も落ちこんだとか。非白人や障害者などマイノリティにとっては冬の時代です。多様性を失ったアメリカは、人種差別があたりまえだった1960年代に逆もどりしたかの観がある。

けれどみんなが同調しているわけではない。
一部の企業は、新政権の横暴にもかかわらず、DEIを維持している。
たとえば小売大手のコストコ。株主である保守系団体が、DEI路線は企業利益を損なっていると批判したけれど、経営陣は多様性が「従業員の確保を進め、われわれの事業に成功をもたらす」と反論している。
DEIということばこそ使わないけれど、事実上DEI路線を堅持すると、予想外の強い調子で表明しました。
2004年に多様性担当役員を設置した企業としては、そうかんたんに多様性という企業文化を変えられないという思いがあるのでしょう。
コストコだけでなく、マイクロソフト、アップル、JPモルガンなども、言い方はさまざまだけれど多様性を放棄しようとしてはいない。

「DEI企業」にとって当面の敵は、保守派の株主とインフルエンサーだといわれます。
保守派株主の「反DEI提案」が株主総会で通った例はないけれど、ボーイング社は総会後にDEIの変更を表明しました。またトヨタはインフルエンサーに攻撃され、DEI路線を変えたといわれます。
かつて企業が軒並みかかげていたDEIが、本物だったかにせものだったかがここにきて暴露されている。
DEIの看板をおろしてもいい。けれど実態としての多様性、公平性、包摂性は巧妙に、しぶとく維持してほしい。それが本物の企業の社会的責任というものでしょう。
いや、トランプ時代というのはそんななまやさしいものではないのかもしれない。
(2025年2月10日)