自閉症の常識が変わっています。
自閉症はほとんどが男児で女児は少ないといわれてきたけれど、そうではない。自閉症は急増していると騒ぐ人がいるけれど、それもちがう。自分自身が自閉症と診断された著名な科学者が指摘しています(I Was Diagnosed With Autism at 53. I Know Why Rates Are Rising. By Holden Thorp. March 20, 2025. The New York Times)。
著名な科学者というのは、権威ある学術誌「サイエンス」の編集長で、ジョージ・ワシントン大学教授のホールデン・ソープ博士です。
博士は53歳のとき、たまたま訪れた心理学者に「あなたは自閉症かもしれない」といわれ、専門家に自閉症のお墨付きをもらいました。小さいころからひとりブツブツいって社会性がなかった。けれど大学教授にまでなったのだから、自閉症といっても軽症だったのでしょう。

そのソープ博士が、当事者としてニューヨーク・タイムズに投稿し、トランプ政権に異議申し立てしました。
トランプ大統領は自閉症が急増しているというけれど、そんなことはない。自閉症そのものが増えたのではなく、診断基準が広がったから症例数が急増したのだ。かつての自閉症が、より広い範囲をカバーする「自閉症スペクトラム」に変わったことをさしています。
概念が広がったことで、またこれまでわかりにくかった女児の自閉症もみつかるようになりました。
ところが、トランプ大統領にとっては診断基準の変更なんてどうでもいい。自閉症が急増したんだからなんとかしろという。
そこで指名されたのが、自閉症の原因はワクチンだという“トンデモ説”を唱えるロバート・ケネディ厚生長官です。長官の指揮下、政府の研究機関CDCはトンデモ説の証明をさせられることになった。現場の科学者は科学をニセ科学に置き換えなければならないのだから、かわいそうであわれです。

自閉症者権利ネットワーク(The Autistic Self-Advocacy Network)は、トランプ大統領の命令に対して声明を出し、そもそも自閉症は病気というよりは人間の多様性の一部であり、「それとともに生まれ、変えるべきではない」ものだといいます。
もちろん、重症の自閉症については理解と支援をこれまで以上に進めなければならない。けれど自閉症スペクトラムの残りの部分について、病気でも異常でもない、多様性の一部だという捉え方は魅力的です。多様性こそは、トランプ的なものの対極ですから。
最近、ぼくもまた自閉症スペクトラムの一部だったかもしれないと思うようになりました。
(2025年3月26日)