報道つぶし

 自由な報道でアメリカは世界をリードした。もうそんな時代ではない。
 アメリカよ、お前もかといいたくなるほど、報道機関への弾圧がトランプ政権のもとで進んでいます。かつて輝いていたかに見えたアメリカの報道の自由は、いまや過去のまぼろしになりました(The US used to be the gold standard for press freedom. Not any more. Mon 28 Apr 2025. The Guardian)。

 報道への攻撃を憂慮するのは、コロンビア大学のカイ・ファルケンバーグ教授です。
「20年にわたりメディアの弁護士を努めてきたが、私にとってアメリカのメディアは自由な報道で世界の模範だった。けれどトランプ政権はこれを攻撃し、わずか数か月で報道と表現の自由を後退させてしまった」
 攻撃の規模と質は、第1次トランプ政権をしのぐといいます。

 もともとトランプ大統領は、訴訟をメディア攻撃に使ってきました。その手法はさらに過激になり、名誉毀損などで要求する賠償金は巨額です。
 たとえば、自分に批判的なCBSテレビの看板番組、「60ミニッツ」を訴えた裁判の賠償額は200億ドル、3兆円です。勝てるはずの裁判だのに、CBSは少額の和解金ですむ示談にしたといわれる。番組プロデューサーが抗議の辞任をしました。
 60ミニッツはテレビ報道の頂点だった。いまや信頼はガタ落ちでしょう。
 ほかにもABCやCNNなどが同様の訴訟に巻きこまれている。

 かつては政権と正面から戦ったメディアが、なぜ示談を考えるようになったか。
 ファルケンバーグ教授は「陪審員問題」を指摘します。裁判の多くは陪審員が決める。これら陪審員が、トランプ政権による長年のメディア攻撃や、一般社会に広がるメディア不信の影響を受け、報道の自由に対してかつてとはちがった判断を下す可能性が強くなった。ことに保守共和党が強い州でその傾向が懸念される。
 だから、政権は好んで陪審員が保守的な地を選んで訴訟を起こすようになった。

 訴訟だけではありません。トランプ政権はあらゆる手法でメディアを攻撃する。リベラルな報道は国民の敵だといって。選挙で選ばれた大統領は、国のすべてを意のままにできるというかのように。
 戦わなければならないと、ファルケンバーグ教授はいいます。けれどトランプ政権のもとで、メディアの戦いはますます困難なものになっている。それはメディア自身が弱くなったからというより、そもそもメディアなんてものはいらないと、社会が、有権者が選択を重ねてきた結果ではないでしょうか。
 それでも自由なメディアは必要だと思う少数の有権者は、ではどうすればいいのか。
(2025年5月5日)