反トランプのスペイン

 西側世界の指導者はみな、トランプ大統領を怒らせないよう、刺激しないよう、へつらってやりすごす。
 でもスペインはちがう。サンチェス首相はヨーロッパでただひとり、トランプ大統領を正面きって批判し、いまや世界的なレベルで「トランプ政治」への対抗軸になっていると、政治学者が指摘しています(Spain’s Leader Is Trump’s Nemesis, and He’s Winning. By Omar G. Encarnación. May 12, 2026. The New York Times)。

 バード大学(ニューヨーク)の政治学者、オマール・エンカナシオン教授の寄稿です。
・・・ことし4月、ブラジルのルラ大統領、メキシコのシェインバウム大統領、それに南アフリカのラマポーザ大統領がバルセロナに集まった。スペインのサンチェス首相とともに、極右に対抗して民主主義と多様性を守ろうと呼びかけている。だれもが、これは反トランプ連合だと思っただろう・・・

マドリード

 多くの国が「熊を刺激するな」と、トランプとの摩擦を避けているのに対し、サンチェス首相はひとり、トランプ大統領に明確なノーを突きつけてきました。ベネズエラのマデュロ大統領の拉致を非難し、イラン戦争では米軍のスペイン基地使用を拒否している。トランプ大統領の軍事費増額要求に、NATO加盟国で唯一スペインが反対しました。

 スペイン独自路線は、政治経済の安定に支えられている。
 サンチェス首相は在任8年におよび、スペインはいまやヨーロッパのリベラルな社会民主主義の拠点です。
「イベリア半島の奇跡」とよばれる経済は、観光産業の隆盛や代替可能エネルギーの開発、中国による投資の促進などに支えられている。富裕層への増税を実施し、50万の移民を合法化しました。女性や性的少数者への差別を禁止している。サンチェス政権のもとで2018年から25年にかけ、スペインの最低賃金は61%上昇しました。
 エコノミスト誌は2024年、スペインを裕福な国のなかで最高の繁栄を達成した国と評価しています。

スペインのサンチェス首相(Credit: European Parliament, Openverse)

 エンカナシオン教授の寄稿で、なるほどと思ったことがありました。
 スペインは過去の歴史の影響もあって、極右が育ちにくいという指摘です。1975年までつづいたフランコ独裁政権の記憶は、いまも社会に生々しく残っている。そのせいでしょうか、世論調査では国民の51%がアメリカはスペインの脅威だと答えている。トランプの傲慢が、フランコ独裁政権と重なるのかもしれません。
 そんなスペインが、グローバルな反トランプ同盟のリーダーになる。
 当否はともかく、世の中はトランプだけではないと思えることにホッとします。
(2026年5月22日)