末期がんの治療風景が変わっています。
かつて末期がんは、余命がかなりの確度で予測できました。しかし治療法の進歩で予想を超え生きのびる患者が多くなっています。
生と死のあいだで長引く「グレーゾーン」に、医師、患者はどう対処すればいいのか(When Your Terminal Cancer Becomes a Chronic Illness. By Daniela J. Lamas, May 10, 2026. The New York Times)。
がんを治療するダニエラ・ラマス医師は、60代の腎臓がん患者、シェド・ボーレンさんの例を引いています。
ボーレンさんは去年夏、腎臓がんが肺などにも転移してステージ4の末期がんと診断されました。余命数か月とされ、周囲にお別れを告げ葬儀の準備までしている。しかし免疫療法剤などでがんは縮小し、いまは社会生活に復帰しています。
ボーレンさんはしかし、よろこんではいない。がんはいつまた悪化するかわからず、自分は「グレーゾーン」にいるといいます。

15年前、末期がん患者は多くが数か月で亡くなりました。けれど治療法の進歩で以前よりずっと生きのびるケースが増えています。
ラマス医師は、余命が延びていることは患者にも医師にも新たな心理的負担になっていると指摘する。死ぬまでに1年といわれればそれなりの心がまえができるけれど、それが5年かもしれないとなったらどうだろう。「引きのばされた人生」にどう対処するか。「あなたは治っていない、けれど死にかけてもいない」ことを、医者はどう伝えればいいか。
おそらく従来のがん治療では考える必要のなかった、グレーゾーンを生きる対処法としての医療文化、言語が必要になるでしょう。
メンタルヘルスやソーシャルワークをとり入れた、治療という概念を超える生き方を、患者も医師もともに探し求めることになるのではないか。

ラマス医師の寄稿から感じたのは、「勝つか負けるか」の二極分化におちいらない方がいいということでした。ラマス医師はそれを患者から学んでいる。もう治療法はない、けれどいますぐ死ぬわけではないという、どっちつかずのグレーエリアにいながら、それでも患者はよりよい生き方を探し求めることができる。遠い将来を考えることができないならば、1日1日をよりよくすごすことにつきるのではないか。
ありきたりなようであり、救いがないかのようでもある。けれどそれがグレーエリアを生きる現実でしょう。ありきたりだからこそ、そこには太古の人間の知恵というものがあるのではないかとも思えます。
(2026年5月13日)
