人文科学の復権

 AIが支配する時代に、シェークスピアやカントを学ぶ意味がどこにあるのか。日本でもアメリカでも、若者たちがそう思ったとしても無理はない。大学はどこも、文学部や社会学部などの人文系学部が衰退している。
 ところが。
 AIがあるからこそ、これからは人文学の時代、若者よ進路を誤るなとコラムニストのモーリーン・ダウドさんがいいます(What A.I. Kant Do. By Maureen Dowd. May 16, 2026. The New York Times)。

「人間を人間たらしめているものこそが、これからは重要になる」
 これからは「他者に対する共感や好奇心旺盛な」人材を採用すると、AIの最先端企業、アンソロピックの創業者のひとり、ダニエラ・アモデイさんがいっている。
「人文科学はかつてなく重要になっている。・・・人間にしかできないこと、他者を理解し歴史を理解し、何が人間をかりたてているかに目を向ける、それがとても重要」

 彼女が率いるアンソロピック社のAI「クロード・ミトス」が世界のデジタルシステムを震撼させていると、このブログでも書きました(4月15日、17日。なおぼくは「ミトス」というけれど、朝日や日経は「ミュトス」といっている)。日本政府も急遽「ミトス対策」に動き出しています。
 ミトスを世に出した人が、これからは人文科学の時代だといっている。
 おなじようなことを、JPモルガン・チェースやIBM、マイクロソフトやネットフリックスのトップもいっているそうです。

 コンピュータができることはぜんぶ、AIに任せればいい、人間はAIにできないことをする。そう考える人たちが詩や文学、哲学を読んで、「世界の意味」をたしかめたくなっているのではないかとダウドさんはいいます。
 すでにスタンフォード大学では、コンピュータ専攻の学生たちが将来に不安を覚え、この20年ではじめて学生の数が減っているそうです。

 おなじようなことは、哲学者の谷川嘉浩さんも指摘しています。
「Google などのグローバル企業が哲学者を採用している。新規事業や新技術に乗り出すときに企業が哲学者や倫理学者を参加させている。インハウス・フィロソファー(企業内哲学者)や最高倫理責任者(CEO)を置いている企業がある」(『スマホ時代の哲学』)
 時代を見るのにもっとも敏な人たちが、哲学や倫理、芸術に目を向けている。突出した最先端の話かもしれないけれど、一抹の希望があります。
 わけのわからない人間っていう存在こそが、いつまでもぼくらを「かりたてる」のです。
(2026年5月18日)