スペインの企業がタコの養殖を計画していると、2年前にこのブログで書きました(2021年12月22日)。その計画の中身が明らかになり、反対運動が盛りあがっています。
タコ食べて何が悪いんだといいたくなるけれど、反対論をよく見ると、時代は変わったのかなとあれこれ考えさせられるものがあります(World’s first octopus farm proposals alarm scientists. March 16, 2023, BBC)。
タコの養殖を計画しているのはスペインの企業、ヌエバ・ペスカノーバ(NP)社です。これまでその事業内容は秘密だったのが、BBCが入手した内部文書で全容が明らかになりました。それによると、NP社はカナリア諸島ラス・パルマスに1千基の水槽を設置し、年間100万匹のタコを養殖生産する。その多くは上得意先である韓国、日本にも送られるというから、他人事ともいえません。
反対運動を進める人びとが問題にしたのは、まずタコの「殺し方」でした。
いまの計画では、出荷前のタコは摂氏4度の水槽で低温死させられます。ダートマス大学の神経学者、ピーター・ツェ准教授は「氷で彼らを殺すのは緩慢な死になり、非常に残酷で許されない」といいます。どうも彼らは、タコを殺すときは棍棒でたたくなどしてまず意識を失わせ、それから息の根を止めるのが人道的だと考えているようです。
この議論が広がり、イギリスのスーパーのなかには「低温死」したタコを販売しないと宣言するところも現れました。
より本質的な反対論は、タコを集団にしてはならないという議論でしょう。
タコは孤独を好む動物です。ひとりでタコツボに引きこもっているのがタコのしあわせ。それがタンクでの養殖となれば、1立方メートルあたり10から15匹ものタコが詰めこまれる。これはタコにとって苦痛以外の何物でもない。ロンドンの大学のジョナサン・バーチ准教授は、養殖で人道的にタコを生産することは不可能だといいきります。
こういう見方の背景となったのは、タコは高等な知能を持つ動物だという最近の知見でしょう。ネコと同等の知能を持っているとか、感情を持っているという科学者もいます。感情を持っているから、タコは苦しいとかしあわせという思いを抱く。それを無視してはならないというのが、タコを研究する多くの科学者の見方です。ネコを虐待してはならないのとおなじように、タコも虐待してはならない。
10年前なら笑い飛ばせた話です。いまはそうもいかない。やがて現れる「スペイン産養殖タコ」を、ぼくらは屈折した目でながめることになるでしょう。
(2023年3月21日)