コミューンじゃなく、モミューン。
何人かの母親がコミューン(共同体)のように集まって暮らしている、そういう生き方です。母親というのはシングルマザー、社会的にきわめて弱い立場ですが、彼女らが力を合わせることで家族となりエンパワーされる。そういうシングルマザーの共同体、“モミューン”が増えています(‘Mommunes’: Mothers Are Living Single Together. May 12, 2023. The New York Times)。
モミューンのひとつは、フロリダ州のクリスティン・バティクファさん32歳と彼女の仲間です。会社員だったバティクファさんは失業し、4歳の娘とともに途方に暮れていたところを、友人が「うちに泊まれば」といってくれたので救われました。ほどなくそこに離婚した友だち親子も転がりこみ、たちまち1軒の家にシングル女性3人と1歳から5歳の子ども3人が暮らす“モミューン”ができたといいます。
たいへんだった時期をふり返って、バティクファさんはいいました。
「夫と分かれたときは、これから自分ひとりでどうしていけばいいのか、それだけで頭がいっぱいだった。ほかのシングルマザーと暮らすなんて考えもしなかったけれど、いまは思う。なんでいままではこういう形がなかったのかって」
むかしながらの、女同士のつながりです。
風邪で寝込んでも、誰かがスープを作ってくれる。子どもが泣いたら公園に連れ出してくれる。みんなで暮せばどうにかなる。それは個人主義の強い白人社会に希薄な文化だったかもしれません。育児雑誌の編集者グレース・バスティダスさんは、自分もシングルの母や叔母のいる大家族で育ったといいます。
「ラテン文化にはむかしからあるんです。みんなが母親になって子育てをする。コロナで孤立する親が増えて、それが広がったんでしょう」
メリーランド州でモミューンを作ったヘリン・ホッパーさんは、シングルマザーの典型にならなかったことを誇りに思っているといいます。
「家父長制の古くさい社会では、離婚したら女は孤立する。新しい配偶者を見つけるものとされ、女はいつまでたっても女の役割から出られない。そこから出たかった」
モミューンが出口になりました。
モミューンということばを作ったカーメル・ボスさんは、ネット上に「コアボード CoAbode」というサイトを立ち上げています。ここに登録しているシングルマザーは30万人。中古品売買のサイトみたいだとボスさんは笑うけれど、ここでおたがいにつながり、モミューンを作る人たちも増えている。
シングルになるのはたいへんだけれど、考えようによっては新しい人生の入口です。
(2023年5月18日)