ネットに年齢制限を

 子どものネット利用への制限が強まっています。
 英語で「スクリーン・タイム」といわれる問題です。スマホやパソコン、ゲーム機の「画面を見る時間」を指しますが、そこから転じてデジタル環境にいる子どもたちをどう救うかを指します。アメリカのルイジアナなど多くの州では、有害なサイトやソーシャルメディアのスクリーン・タイムを13歳以下には禁止、18歳未満の未成年には保護者の許可制にする動きが進んでいます。
 全面的な禁止ではありません。子どもや未成年にデジタル環境を与えながら、その害から守るということです。これについてはケンケンガクガクの議論があったけれど、ここに来てアメリカ社会は、やっぱりネットの利用には飲酒や車の運転とおなじように年齢制限をかけようという流れが強まりました。

 この議論を見ながらぼくが気になったのは、女子生徒がとくに深刻な影響を被っているという指摘です。非営利団体「スクリーン・サニティ」のトレイシー・フォスターさんの話を、ニューヨーク・タイムズのティッシュ・ハリソン・ウォレンさんが聞いていました(Managing Screen Time Is a Family Matter. By Tish Harrison Warren. May 14, 2023. The New York Times)。

 フォスターさんは、自分たちがネットの問題に取り組むようになったのは「グリーフ」がきっかけだったといいます。グリーフとは悲嘆、悲しみ、落ちこみですが、それがアメリカの女子中学生、高校生のあいだに広がっている。
「2021年の調査では、アメリカの女子高生の57%は“執拗な悲しみと無力感”に襲われている。30%が本気で自殺を考えたことがあるといっています」
 自殺を考える生徒の割合は10年前は19%だったから、女子高生のあいだには明らかにネガティブなムードがまん延している。
 それがすべてネットのせいだとはいえないけれど、ネットがなければこうまでひどくはならなかった。こうした議論をする親たちのなかから、スクリーン・タイムが増えることで自分たちは多くを失ったという指摘がありました。ひとりの親はいっています。「子どもたちの目が、輝きを失っている」。

 話し合うことだとフォスターさんはいいます。家族で、友だちで、仲間で、地域で。
「私たちは、親としてこの問題に直面する最初の世代です。参照すべき既成の知恵や知識は何もない。どうすればいいか、自分たちで考え出さなければなりません」
 ソーシャルメディアなどの利用を、年齢で制限するのはひとつの対策でしょう。でもそれだけでネット依存がなくなるわけではない。子どもたちが子どもなりにネットを理解する、その手伝いをおとながしていくというのが現実的な方向です。
 禁止と処罰ではなく、子どもたちへの共感と尊敬の念を失わないようにしながら。
(2023年5月17日)