世界陸連の矜持

 来年のパリ・オリンピックに、またひとつ暗い影が落ちています。
 WA、世界陸連が、ロシアとベラルーシの選手を自分たちのスポーツ・イベントに参加させないと決めました。スポーツ界に強い影響力を持つ世界陸連の決定は、今後IOC、国際オリンピック委員会の動きも牽制することでしょう(The world organization for track and field keeps its ban on Russia and Belarus, adding to Olympic debate. March 23, 2023, The New York Times)。

 世界陸連は去年、ロシアがウクライナに攻め込んだ直後、ロシアとベラルーシの選手を陸連が開催するすべてのスポーツ・イベントから締め出すと決めました。今回はその決定を1年後に再確認した形です。
 世界陸連のセバスチャン・コー会長はこういっています。
「この1年、私はウクライナで殺戮と破壊がつづくのを見てきた。そこではアスリートも185人死亡している。そのことを思えば私の決意は変わらない」
 ロシアとベラルーシの選手を、陸連の競技は参加させてはならない。
「彼らの多くは軍部とつながっている。彼らにその恩恵を享受させるわけにはいかない」

セバスチャン・コー世界陸連会長
(Credit: Doha Stadium Plus, Openverse)

 オリンピックにロシアとベラルーシ選手の参加を認めるかどうか。
 この問題をめぐっては、もっとも強硬に反対するウクライナと、ウクライナに同調するヨーロッパの国々があります。じっと様子を見ているだけの国も、ただただ無関心な国もある。現状から想像するに、世界陸連がどういう決定をしようが関係なく、オリンピックはウクライナ抜きでも開かれるのではないでしょうか。
 なにしろIOCにとっては、戦争も人権もコロナもどうでもいいことです。オリンピックを開けば莫大な興行収入があり、利権に群がる人たちがうごめき、五輪貴族は安泰です。そういう組織がある一方、世界陸連のように戦争の悲惨を見つめ、明確に政治を意識して行動する組織もある。スポーツ界がみな、カネだけで動いているわけではないのですね。

 それにしても、話は飛びますが「札幌オリンピック招致運動」っていったい何でしょうか。
 IOCがとにかくオリンピックを開きたい、カネをもうけたいと突っ走るのとおなじように、札幌のオリンピック招致運動も、とにかくオリンピックを招きたい、そこで思う存分税金を使いたいという一心のように見えます。
 ぼくら横浜市民は、カジノ誘致を唱える前市長を引き下ろし、横浜がギャンブル都市になることを回避しました。札幌のみなさんもカネと利権のオリンピックなんかやめて、もうちょっとすがすがしい都市を目ざしたらどうでしょうか。オリンピックには、もうかつてのような清廉なイメージはないと思います。
(2023年3月28日)