便利さの代償

「永遠の化学物質」を駆逐する動きが強まっています。
 企業の製造責任が問われ、一部の汚染について除去費用を負担させることになりました。画期的な動きです(E.P.A. Will Make Polluters Pay to Clean Up Two ‘Forever Chemicals.’ April 19, 2024. The New York Times)。

 永遠の化学物質とは一群のフッ素化合物のことで、ピーファス(PFAS)とも呼ばれます。
 きわめて安定で、長期間分解されず自然界に存在できる。だから「永遠の」といわれ、産業や軍事、日用品に広く使われてきました。ぼくらにとってはテフロン加工の、焦げつかないフライパンが身近な存在でしょう。あのおかげで料理はずいぶん楽になりました。

 そのピーファスが、代謝障害や生殖障害、児童の発達遅滞を起こすといわれています。前立腺や腎臓、肝臓障害の危険を高めることもわかってきました。
 アメリカ政府の環境保護局は2022年、ピーファスの害は「従来考えられていたよりだいぶ低いレベル」で起き、どのようなレベルであっても安全とはいえないといっています。

 環境保護局が今回やり玉にあげたのは、ピーファスのなかのペルフルオロオクタン酸とペルフルオロオクタンスルホン酸という2物質で、それぞれピーフォア(PFOA)とピーフォス(PFOS)と呼ばれます。
 自然界には存在しないこれら2物質が、いまではほとんどのアメリカ人の血液から検出され、全国の水道水の半分を汚染しています。このため環境保護局は19日、この両物質を製造、使用する企業は、これら物質の環境中への放出を監視し、汚染があった場合は除去する責任を負うと決めました。違反すれば数十億ドル規模の罰金になります。
 またすべての水道事業者に、飲料水のピーファスをゼロに近いレベルにまで下げるよう求めました。

 環境保護団体、EWG(Environmental Working Group)のケン・クック代表は、これは正しい方向への一歩だといっています。
「歴史上最大の環境犯罪があったことをわれわれは誰も知らなかったし、それを容認した覚えもない。毒をばらまいてきた汚染者は、ずっと以前に責任を取らなければならなかった」
 すでに進んでしまった人体や環境への汚染は深刻です。ピーファスを製造してきた3M社は、各地の水道水の汚染除去作業などに13年間で103億ドルを支払うことになりました。今後も多くの訴訟が起こされるでしょう。

 テフロンのフライパンは、まだすぐやめなければならないほどの差し迫った問題ではないようです。けれど長期的にはなんとかしなければならない。ぼくらが手にした便利さは、高い代償をともなっていたのです。
(2024年4月26日)