アルゴリズムの戦争

 ウクライナ戦争をめぐってワシントン・ポストが秀逸な特集を載せ、翌日ニューヨーク・タイムズはそれを上回る特集を出したと書きました。
 これだとまるで、「前座のポスト、真打ちのタイムズ」みたいです。
 そんなことはない。翌々日にはふたたびポスト紙が、「タイムズもここまでは書けまい」という深い分析記事を載せました。デビッド・イグネシアスさんの「アルゴリズムが変えるウクライナ戦争」。2日間にわたる連載は、いまAIがウクライナ戦争だけでなく、ぼくらの世界をどう変えているかを考えさせる並外れた力がありました( How the algorithm tipped the balance in Ukraine. By David Ignatius. December 19, 2022, The Washington Post)。

デビッド・イグネシアスさん
(ワシントン・ポスト)

 この記事の核をなしているのは、ビッグデータ処理システムです。
「メタコンステレーション」と呼ばれるシステムが、現在のウクライナ軍の優位を確立したというのです。
 アメリカの巨大情報処理企業、パランティア社が開発したこのシステムは、戦場で発生する膨大な量の情報を統合し、リアルタイムでウクライナ軍に提供する。たとえば前線のロシア軍兵士がどこにいるか、どう動いているか、衛星やドローンの画像やレーダー、赤外線映像など多彩な情報をAIで判定し、その判定にもとづいて精密攻撃が行われる。攻撃の結果はふたたびシステムに入力され、システムはリアルタイムで進化してゆく。

パランティア社ロゴ

 詳細は興味深いけれど、省きましょう。
 パランティア社のシステムは最初はCIAと、その後はアメリカ軍とともに開発されました。それが今回ウクライナ戦争で活用され、しだいに威力を発揮するようになった。その進化が、たとえば11月のヘルソン解放という南部戦線の大きな戦果に結びついたといいます。

 ロシア軍はこういうシステムを持っていない。だから圧倒的に優位なのにウクライナ軍に負けつづけている。パランティア社幹部のアレックス・カープさんはいいます。
「先進のアルゴリズムを使えば、いまや通常兵器でも戦術核兵器に匹敵する力を発揮できるようになる」

 イグネシアスさんは指摘しています。
・・・今回の取材を通してわかったのは、パランティアをはじめとする企業のツールはウクライナだけでなく、いろいろなケースで抑止力になることだ。この強力な技術があると、たとえば台湾を攻撃するのはたいへんだと思うだろう。デジタルの戦争が中国に送るメッセージは、「考え直しなさい」ということだ・・・
 ほんとに考え直してくれればいいけれど。
 中国はデジタル分野でロシアより先進の国。台湾はウクライナ以上に洗練のアルゴリズムを必要とするでしょう。
(2022年12月21日)