きのうまで大型のヒグマ、グリズリーとの共存を考えてきました。
その関連で思い出すのは、ドイツのオオカミです。ちょうど5年前のニューヨーク・タイムズに、人間と野生動物のかかわりを考えるうえで刺激的な記事がありました。そこからさらに冒険的な考えが浮かぶ記事です(A Fairy-Tale Baddie, the Wolf, Is Back in Germany, and Anti-Migrant Forces Pounce. April 23, 2019. The New York Times)。
こんな内容でした。
・・・ドイツ東部のフェアストーゲンで、55頭の羊が惨殺された。犯人は6頭から7頭のオオカミとみられる。ドイツのオオカミは100年前に絶滅したが、ポーランドで生き残り保護政策で増えている。その群れがドイツに入り、農家の羊や牛を襲うようになった・・・
よくある話です。オオカミはシカやウサギを餌にするけれど、家畜を襲うこともある。けれど被害は補償され、農家の損失はない。自然保護という大きな流れのなかでのできごとです。
けれど記事のトーンはここから変わります。
・・・ドイツに侵入しているのはオオカミだけではないという政治家がいる。オオカミとおなじように自分たちの社会に侵入してくるもの、移民だ。極右政党AfDの議員は、移民は「レイプ、殺人、警察への襲撃」を起こし、「オオカミと移民が引き起こす危機には多くの共通点がある」と演説する・・・
オオカミと移民への攻撃は、旧東ドイツでことに強い。
彼らは、オオカミは保護政策によって、また移民は福祉予算で手厚く守られているのに、自分たち旧東ドイツ人は置きざりにされていると感じる。その不満を極右があおり、広げる。
ドイツにいるオオカミは700頭と推定されますが、人を襲った記録はありません。けれど一部住民のなかには、オオカミは恐ろしいという感情がしみついている。なにしろここは童話「赤ずきん」発祥の地でもあり、悪の権化としてのオオカミ像が根強い。環境保護派のひとりはいいます。
「オオカミは、わたしたちのなかの深いところを刺激して分断を起こしている」
さて。
クマからオオカミ、カリフォルニアからドイツへと話を広げたのは、その先にもうひとつの考察を重ねたかったからです。
精神障害者という存在について。
「恐ろしい野生動物」、「危険な移民」、その先には「何をするかわからない精神障害者」があるのではないか。それらはいずれも、ぼくら自身が作り出したイメージです。あるいは、ぼくらの「深いところ」に植えつけられたもの。そのことをもう少し考えてみます。
(2024年5月8日)