最先端のオランダ

 半年前、アメリカで急速にビニルハウスが広がっていると書きました(6月22日)。そのころぼくは、ビニルハウスもいいけれど、炭素排出量が大幅に増えるから考えものだ、やはり露地栽培がいいと思っていました。
 ところが世界最先端のオランダでは、農業の風景がガラッと変わります。
 炭素を減らすだけでなく、高い生産性と持続可能性が実現されている。これからはオランダに学び、ビニルハウスよりずっと先の「環境制御農業」に向かわなきゃいけないんだと、わずか半年でぼくはコロッと見方を変えました(Cutting-edge tech made this tiny country a major exporter of food. Nov. 21, 2022, The New York Times)。

 オランダがこんな農業先進国だとは知らなかった。
 北海道の半分ほどの小さな国で、いまや金額ベースで米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国です。その生産性の高さは、たとえばトマト1ポンドをつくるのに、世界平均では28ガロンの水を必要とするのにオランダでは半ガロンというところに表れている。単位面積あたりの生産量は露地栽培の10倍にもなるとか。
 トマトだけじゃありません。野菜や花卉、畜産、ロボット、種子ビジネスと、すべての分野で「さすがオランダ」なのです。農業分野で世界的なビッグビジネス20社のうち、15社がオランダに主要研究開発センターを設置しているという、グローバルな農業革命の中心地です。

 たんに技術が進んでいるだけではない。
 オランダの農業は、技能実習生の酷使で成り立っているのではありません。子どもやマイノリティの奴隷労働とも無縁です。反対に、公正と倫理の考え方があちこちに浸透している。

 ぼくがひじょうに気に入ったのは、キプスター社という養鶏場の取り組みでした。

キプスター社の養鶏場
(同社ウェブサイトから)

 ニワトリが広い空間で自由に動きまわっている。クチバシを切られていないから地面をつつくことができ、中庭の木に飛び移ることもできる。太陽光発電だからカーボンニュートラルで、エサはすべてスーパーや食品工場の余剰野菜でまかなうといいます。
 こういう「ニワトリを虐待しない養鶏場」の卵は、大手食品産業が全品を買い取ってくれる。つまりそれは消費者にも訴える力があるということでしょう。

 キプスター社は来年、新スタイルの養鶏場を4か所、アメリカにもつくる予定です。
 そこは外部の人が自由に見学できるようにするというから、自信のほどがうかがえる。ニワトリに卵を産ませるのにも倫理と持続可能性を考えたい、それも消費者とともに進めたい、ということなのでしょう。
 ビニルハウスのはるか先の農業の形が、オランダにあります。
(2022年12月15日)