滅亡のシナリオ

 明日世界が滅びるとも、きょう私はリンゴの木を植える。
 マルティン・ルターのことばですが、「世界が滅びる」のはむかしから究極の大異変です。そういう破滅を止めるヒーローが登場する、というのがSFやアクション映画の定番ですが、実際に考えられる地球滅亡にはどんなシナリオがあるのか。コラムニストのJ・アッヘンバッハさんの「滅亡論」が、まじめでユーモラスで印象に残りました(Asteroids! Solar Storms! Nukes! Climate Calamity! Killer Robots! By Joel Achenbach, November 7, 2022, The Washington Post)。

 アメリカのNASA(航空宇宙局)は去年9月、宇宙空間の小惑星「ディモルフォス」に「ゴルフカートのような探査機」を衝突させる実験を行いました。ディモルフォスは軌道がわずかに変わり、実験は大成功だったといいます。この技術をみがけば、人類は将来、宇宙空間から飛んでくる小惑星の軌道をそらせて地球への衝突を防げるかもしれない。

衝突実験の対象になった小惑星ディモルフォス
(NASAのサイトから)

 いや、そううまくはいかないかもしれない。
 ある程度以上の大きさの小惑星は、ゴルフカートのような探査機をいくらぶつけても効果はありません。そのときは人類滅亡か、それに近いことになるでしょう。そういうことが1億年にいっぺんくらい起きると科学者は計算しています。

 1億年にいっぺんなら、どうでもいいや、忘れよう、ですむかもしれない。
 でも地球滅亡は、それ以外にもいろんなシナリオがあるとアッヘンバッハさんはいいます。
 彼はその例を10、あげていました。
 一番ランクの低い10番目は、「太陽嵐」です。こんな現象はまったく知らなかったけれど、太陽の活動が活発になり、大量の磁性物質が地球に飛来して電気が使えなくなる。コンピュータのデータもすべて消失か。滅亡とはいえなくても大災害です。

 9番目は「火山大噴火」。8番目が「小惑星の衝突」。7番目「穀物を破滅させる病害菌(自然でも人工でも)のまん延」、6番目「兵器としてのウィルスなど、強力な病原体によるパンデミック」、5番目「オーウェル的ディストピア、全体主義が徹底し人間精神がつぶされた世界」、4番目「人工知能などのつくる大規模複雑システムの連鎖的な崩壊」、3番目「核戦争」、2番目「気候危機などによる自然の崩壊」。1番目は「未知の脅威」だそうです。
 まだぼくらが知らない危機があるかもしれない、起きるかもしれない。これは秀逸な観察です。

 それにしても、滅亡のシナリオってこんなにあるんですね。
 人類の物理的な消滅だけでなく、「全体主義の徹底」のように、人間が精神的に死んでしまう事態も、いわれてみればやはり「人類の消滅」なんでしょう。それを恐竜が絶滅した天変地異よりもっとひどい事態と捉える、そういう想像力もあるんだと感心しました。
(2023年1月5日)