虐待観の変化

 児童虐待は悪です。
 けれどその反対の、過剰な保護もまた子どもをだめにする悪です。
 アメリカでは、子どもをひとりにしておくだけで虐待とされる。けれどひとりにするのが「自立をうながす」ためなら虐待とみなさないと、法改正を進める動きが広がっています。
「子どもの危険」に対する見方が、微妙に変わってきました(Should Letting Children Play Alone Outside Be a Crime? Aug. 11, 2026. The New York Times)。

 ジョージア州アトランタに住むマレリー・シャーリーさんの6歳の息子が、その例でしょう。
 去年の秋、家に帰ってきた息子が変なおばさんに後をつけられたといいます。近くの公園からキックスケーターで帰る途中、そのおばさんに呼び止められ、歳はいくつか、家はどこかと聞かれた。おばさんはそのあと、家まで後をつけてきたらしい。
 2日後、郡のケースワーカーがやって来て、児童虐待の告発があったと告げました。6歳児を、おとなの付きそいなしで公園から家まで移動させたのは虐待だと。

 シャーリーさんは、息子に自立心を持ってもらいたかった。ひとりで公園に遊びに行かせたのは放任や虐待ではないと、弁護士を立てて戦いました。
 そのころちょうど、ジョージア州の児童虐待防止法が改正されています。家の外でひとりで遊ぶことをふくめ、自立した活動を進めるためなら児童をひとりにすることもできるようになりました。シャーリーさんは無罪放免、息子はまたひとりで遊びに出られるようになりました。

 児童虐待防止の行きすぎた法律を改正する動きは、これまで13の州で起きています。ことし5月には連邦議会下院に、「子どもの自立と耐性を進める法律」が超党派で提案されました。子どもの自立性を育むためにひとりにすることは、かならずしも虐待ではないという考え方が広がっています。
 背景には、虐待や誘拐に対する従来の過剰な警戒心がありました。たしかに子どもを危険にさらしてはならない。けれどつねに「最悪のケース」を想定し、管理監視を徹底したら子どもはまともに育たないのではないか。

 最近のハリス社の調査では、8歳から12歳のアメリカの子の62%は、おとなのつきそいなしに歩いたり自転車に乗ったりしたことがないといいます。スーパーに買物にいっても、親のもとを離れることができない。放してもらえない。
 そうしてつねにおとなの監視下におかれた子は、うつ状態になる率が高いと専門家は指摘しています。
 いまどき、子どもが子どもらしく生きるってほんとにたいへんなことなんですね。
 根本は地域の力をつけることじゃないかと思うけれど。
(2026年8月14日)