貧しくなった国で

 先日このブログでBBCの記事を紹介しました(1月25日)。
 日本に10年駐在したルパート・ウィングフィールドヘイズ特派員の、「日本は未来だった、いまは過去にとらわれている」(Japan was the future but it’s stuck in the past)というタイトルの“日本論”です。日本を離任するに際してまとめた長文のエッセーでした。
https://www.bbc.co.uk/news/world-asia-63830490
 なかなかいい内容だと思ったら、おなじように感じた人がたくさんいたようで、世界中で300万人もが読んだと朝日新聞デジタル版が伝えていました(2月6日)。

 朝日新聞のインタビューに答えた同特派員は、あらためて「第二の故郷」でもある日本への深い思いを述べています。そのなかに、痛みをもって共感しないわけにはいかない部分がありました。この10年で日本が変わっていないことのひとつは、「これほど女性の人材が豊富なのに、正当に評価、活用されていない」ことだという指摘です。
・・・欧米では2年休んで子どもを産み、キャリアを再開することができるのに、日本ではキャリアを積もうとすると、家庭を持つことが非常に難しい。日本経済にとって、人材の喪失というほかありません・・・

 ウィングフィールドヘイズ特派員は、自分の娘がまさにこうした問題に直面したといいます。イギリスの大学を優秀な成績で卒業した彼女は、日本の企業に就職したけれど1年でやめてしまった。それは「給料があまりに低かった」から。
・・・娘はいま、オーストラリアで暮らしています。そこでバイトをした方が、新卒として日本のスタートアップ企業で働くよりも稼げるからです。なぜ、優秀な若い人材により良い給料、より良い機会が与えられないのか・・・

 日本で働くより外国に行ったほうがずっと稼げる、楽に暮らせる。これに似た話を、最近よく聞くようになりました。
 日本の若者は、アメリカやドイツの若者よりずっと長時間働いてずっと少ししか稼げない。おまけに女性はさらに低く見られている。外務省の統計によれば、海外に永住する日本人がますます増え、最近は6割が女性だとか。当然の流れでしょう。

 思わずため息が出ます。そこであらためてぼくはBBCの記事を思います。
 ぼくらの社会について考える材料がたくさんある。でも答えがない。納得できないから考えつづける。
「未来だったけれどいまは過去」の日本で、ぼく自身が降りていく生き方をつづけるにはどうしたらいいんだろう。たくさんの矛盾を抱えながら、納得できないまま、ずっと悩み考えつづける。つねにそこにもどるしかないかという思いが頭に浮かびます。
(2023年2月9日)