神様のジェンダー

 キリスト教の神にはジェンダーがない。
 その神を「父」と呼ぶのはおかしい。かといって「母」でもない。じゃあなんと呼べばいいのか。いっそLGBTQにならって、三人称複数( They/Them )にするか。
 こんな議論がイギリス国教会ではじまっています(Is God They/Them? Church of England considers gender-neutral pronouns. February 8, 2023, The Washington Post)。

 前世紀にはじまった男女平等の概念は、今世紀になって生物学的な性から自認する性へ、二分できない性へと、じつに多彩な捉え方に発展しています。こうした社会の変化を受け、そもそも性別のない神を礼拝でどう呼ぶかが問題になりました。
 イギリス国教会は、「キリスト教徒は古代から、神は男でも女でもないと認識している」としながらも、「神に対するさまざまな形での言及や記述が、つねにわれわれの礼拝に反映されているわけではない」とのべ、礼拝で神をどう呼ぶかについてこの春から専門委員会で議論をはじめるとしています。

 ではどういう呼び方にするのか。
 これはたんに用語の問題ではなく、性とジェンダーについての本質的な議論をともないます。たとえばイギリス国教会は同性婚を認めるのかどうか、認めるならそれは、「結婚はひとりの男とひとりの女の生涯にわたる結びつき」だとする教義とどう折り合いをつけるかなど、広範な議論が必要でしょう。
 すでに礼拝委員会のメンバーのなかからは、神について「ジェンダーにこだわらない」呼び方にしたいという意見が出ています。また別なメンバーはイギリス・メディアの取材に、自分たちは「ちょっとウォーク (woke)かもしれない」といっている。ウォーク、すなわち保守派から見たら“気取った過激派”という意味です。いずれにしても、伝統的な教会の礼拝が言語という面からも変わろうとしています。

 オクスフォード大学で教会史が専門のD・マッカロッホ名誉教授は、神は人間のことばでは規定することができないから、神をジェンダーと結びつけるのはあくまで隠喩でしかないといいます。つまり、「父なる神」のような言い方はひとつの例えであり、いまはそういう時代ではなくなったというのです。
「だから礼拝の場で、神についてどう話すかつねに議論を進めるのは当然でしょう。とくに性とジェンダーについて社会の議論が進んでいるならなおさらです」

 新しい用語がいつ決まるかは、まだわかりません。あまり先走った決定をしても信者がついてこなければ意味はない。でもイギリスの人びとなら、どこかでこの議論をまとめるでしょう。
(2023年2月10日)