ありふれた現象も、新しい名前がつくと新しく見直されます。
ヤングケアラーがそうでした。親や家族のめんどうを見なければならない子どもたち。名前がついたことで、あらためて存在が注目されています。古い例でいえばセクハラやDV。先進国ならどこにでもある現象が、名付けによって前景化しました。
そうしたなかでも、かなり突出した名付けでしょう。
出産ストライキ。または結婚ストライキ。
女性が子どもを産まない、結婚しようとしない。古い権威への挑戦のように。韓国社会が21世紀の最先端を走る姿を、これらのことばが表していると作家のハウォン・ジュンさんが書いています(How to End South Korea’s Birth Strike? Feminism. Jan. 27, 2023, By Hawon Jung. The New York Times)。
韓国の少子化は日本よりはるか先をいっています。
1960年代、韓国女性は平均6人の子どもを産んでいました。それが20年後にはほぼ2人になり、人口の増加が止まった。しかも減る傾向は強まるばかりで、2021年の合計特殊出生率は0.81と激減しています(厚労省によれば日本は2019年に1.36)。
原因は、女が生きにくいから。男がすべてを支配する強固な家父長制のせいで。
出産だけでなく子育て、家事のすべてで女性は重荷を負わされている。結婚したら仕事はあきらめる。職場ではあからさまな差別を受ける。女性への虐待、殺人をふくむ暴力もなくならない。そんな国で、女性の65%が子どもを産みたくないというようになりました。
危機感をつのらせた韓国政府は、多額の補助金をばらまいています。でも金の力で少子化を解決できた国はありません。「産めよ増やせよ」の呼びかけに、多くの女性たちは「絶対ノー」といっている。ある集会ではひとりの女性が「子どもを産む装置となることを拒否する」と旗を掲げました。もうひとりの女性はこういいました。
「私たちは女性に不可能な重荷を追わせ、女性を尊重しない社会に出産ストライキで復讐する」 ストライキとともに、韓国女性のあいだでは「4B」と呼ばれる運動があるそうです。デート、セックス、結婚、出産という4つのことをしないという意味をまとめた標語です。「ミートゥー(#MeToo)」とおなじように、4Bは最近隣の中国にも広がっているとか。
ぼくは韓国の女性作家が書いた『82年生まれ、キム・ジヨン』や『僕の狂ったフェミ彼女』を読み、少しだけそうした流れに触れていました。でも出産ストライキや4Bは知らなかった。すごいなと思います。社会の奥底に、この世界を変えたいというマグマのような力があるのではないか。それはぼくらの社会よりずっと強い力としてあるのではないかと思います。
(2023年2月1日)