精神科で、AIセラピーがますます人気です。
もう人間のセラピストはいらないんじゃないか。いやでも、そうなったからこそセラピーって何かという疑問が浮かびあがります。AIにできないセラピーこそがほんとのセラピーじゃないか。そこに精神科の、精神症の深淵が見えます(My patients use ChatGPT for therapy. Now I use it too. By Sarah Darghouth. 8 Jul 2026. The Guardian)。
AIセラピーの急速な広がりに考えこんでいるのは、臨床家でハーバード大学の准教授でもあるサラ・ダグースさんです。
ダグースさんは、AIによるセラピーは効果があると認めている。患者がスマホを取りだして見せてくれるAIの回答は、自分がいうべきことをそのまま、いやもっとていねいにすっきりと伝えている。それをみて思わず「これ、いいじゃない」といってしまう。

「患者がセラピーの場にどんどんAIを持ちこむようになって、私はときどきだれの声を聞いているのかわからなくなる」
患者の声か、AIの声か、患者とAIが作り出した声なのか。
AIは有能と認めながら、ダグースさんはその危険についても話すようにしてします。AIがときにどのように不安をあおるか、誤った情報を与え、妄想や自殺念慮を抱かせることがあるか。患者にはAIを使わないようと勧めています。
とはいえ、AIに頼りたくなることもある。
最近も、あるセッションで女性が固まり叫びだしたことがある。彼女はこの世界に対してひどく怒っていて、患者も自分も追い詰められていた。あれこれしゃべってはみたけれど言葉は届かない。もしそこにチャットがあれば、状況を巧みにまとめてなにか考えを示してくれたのではないか。ダグースさんは言葉を失い、困りはてていました。
けれど、言葉を失い、困りはてているような場面にこそ意味があるのではないか。ダグースさんはそういいたいようです。

「私はセラピーのなかで何度も、私はほんとうにわかっていないと思った。また変化というものはしばしば、遠回りで予測のつかない形で起きるものだと思った」
沈黙や困惑や混乱を、マイナスではなく可能性ととらえる。セラピーとは、患者とセラピストに予測できない変化をもたらすもの。そんなふうにとらえるダグースさんは、治療者としてAIが決しておよばない力を持っているとぼくは思いました。
人間の存在としての悩みや混乱について瞬時にそれらしい正解を出すのであれば、AIは精神科的にみていかがわしい存在というしかありません。
(2026年7月10日)
