机上の軍事力

 盆栽アーミー、というんだそうです。
 ヨーロッパ各国の軍隊を、アメリカから見たら。
 最新の軍備はあるけれど、いざ戦争となっても使えない。第二次大戦以降、ずっと世界のどこかで戦争を戦ってきたアメリカから見れば、いまのヨーロッパの軍隊は飾りのようなものでしょう。
 そこから露呈したのが、「ウクライナに送る戦車がない」という現実でした(Scrounging for Tanks for Ukraine, Europe’s Armies Come Up Short. Feb. 28, 2023, The New York Times)。

 ロシアがどう反応するかを測りかねながら、欧米各国がウクライナに最新鋭の戦車を提供すると重大な政治決断をしたのは1か月前のことです。それからすぐ戦車がどんどんウクライナに送られたかというと、そうはならなかった。
 フィンランドでは、結局提供できるレオパルト戦車は1両もないことがわかった。10両の提供を考えたスウェーデンも、自国の防衛にせいいっぱいの軍がノーといっている。108両を保有するスペインも、使えるよう整備するのに数か月かかるといっています。整備も装備も部品も足りないまま、盆栽アーミーにはいま実戦で使える戦車がほとんどなかったのです。

レオパルト戦車

 要するに準備がなかった。
 欧州諸国では誰も、こんな戦争が起きるとは思っていませんでした。ドイツの防衛専門家、クリスティアン・メリングさんはいいます。
「ヨーロッパ全般、どの軍もずっと削減、削減、削減でした。みんなドイツとおなじだったんです。戦争なんて机上の空論、だから戦車も机上の空論」

 持っているだけ。実際の戦場では使えない。
 ロシアがウクライナに攻めこんではじめて、ドイツはことの重大さに気づきました。それまでGDPの1%ほどだった軍事予算を、一気に2%へと劇的に増強しています。多くの国が、ソ連崩壊後の平和の眠りから目覚めないわけにいきませんでした。
 さまざまな問題があり、多少の遅れはあっても、いずれヨーロッパ各国はウクライナにレオパルト戦車を送るでしょう。そうした支援で、ウクライナはロシアへの反撃を試みるはずです。

 こうした経過を見ながら、ぼくはつくづく思います。
 軍事力というのは一朝一夕にできるものではない。たんに最新装備があればいいというものでもない。長期にわたる積み重ね、総合力です。数百基程度の巡航ミサイルを持っても、それだけでは飾りにすぎない。基礎を、基本を、こころがけを。それがウクライナでの戦争で見えてきたことでしょう。

 だからすぐに軍備増強をとはいいません。それよりずっと大事なのは、自分を守るってどういうことかと、回り道であってもそのはじめから考えることでしょう。そのための議論をおこすことです。
(2023年3月8日)