身のほどわきまえた国

 この秋、トマトが高嶺の花です。
 近所のスーパーで小さな玉が3つで600円。倍の値上がりです。しかもまだ青っぽい。売り場の張り紙には気候不順のせいで品不足、11月半ばまでつづくとありました。
 夏の異常な暑さと日照りつづき、秋になっても下がらなかった気温を思い返します。いまの農家はどこもおなじ苗を仕入れておなじ方法で作っているから、気候条件が変わるといっせいにダメになるのでしょうか。
 日本だけの現象ではなく、世界の農産物が温暖化で深刻な影響を受けています。ワイン用ブドウの生産量は60年ぶりの落ち込みになると聞いて、ため息が漏れました(Global wine production falls to 62-year low in 2023. Nov. 8, 2023. BBC)。

 国際ブドウ・ワイン機構(OIV)によると、世界のワイン生産量は前年にくらべ7%の減少で、1961年以来の生産量の低下だそうです。OIVのジョルジオ・デルグロッソ統計部長はいいます。
「北半球も南半球も、壊滅的な状況に陥っている」
 世界のワイン生産の60%を占めるヨーロッパを見ると、ことしのワイン用ぶどうの収穫は、スペインで14%、イタリアで12%の減少です。南半球はもっと悪いらしく、南米最大のワイン生産国チリは干ばつと山火事の影響で20%減、オーストラリアはもっとひどいらしい。

 いずれ輸入ワインは急騰するのではないか。気になるけれどまだそうなってはいない。これはOIVによれば、2018年以来中国経済の伸びが鈍化し、ワインの輸入、消費が中国で落ちこんでいるためだそうです。
 ということは、中国が元気になると輸入ワインには手が届かなくなるんでしょうか。

 憂鬱に拍車をかけているのが円安の進行です。
 10年前に千円だった輸入ワインが、単純計算で1500円。ワインが飲めなくなるだけでなく、気軽に海外旅行にも行けなくなった。日本のGDPは、来年はドイツに抜かれ世界4位に落ちこむでしょう。しかも回復の兆しはない。
 暗澹たる気持ちになりかけて、立ちどまります。
 こころの片隅に、「これもまたいいのかも」という思いがわく。
 強く、大きく、立派になるのではない。身のほどをわきまえたあり方というものが、国にもあるのではないか。「偉大な国」なんて、危ないし迷惑だし。

 そんなことを思いながら、これからは輸入ではなく国産のいいワインを探そうかと考えています。日本ワインも、だいぶよくなったと聞くので。
(2023年11月9日)