カニ博物館というのがあって、人気なのだそうです。
イギリス南東部のマーゲイトという町に、2年前できたカニやエビなど甲殻類のミニ博物館です。ただの展示だけでなく、そこはイギリス、博物館とは思えないユーモアがあふれている。大英博物館もいいけれど、こういうところにも行ってみたいものです(This Silly Museum About Crabs Has Serious Things to Say. Dec. 27, 2023. The New York Times)。
たとえばカニ9匹を配置した町のジオラマ。熱帯地方に住むヤシガニや海藻でおおわれたノコギリガニ、怪物的な容姿のカルイシガニなどがそれぞれ生物学的に正確な姿で登場するけれど、していることがマンガです。一匹はビールのジョッキを持ち、もう一匹はクリケットのバットを構え、もう一匹は「女性に投票権を」というタスキを掛けている。
説明板に、これら3匹は地球上の別の場所にいるけれど、みな1920年代のイギリスの町の風景を表しているとあります。カニの交尾を示す展示には「検閲済み」と張り紙があり、カニの脱皮を表す展示では、鎧を脱ぐのに苦労する騎士がオーバーラップされている。
そういうジョークのあいまに、気候危機や資本主義の矛盾、植民地主義の過去などが浮かびあがります。資本主義の矛盾コーナーでは労働争議に参加するカニがいたり、温暖化については「見てはいけない」といって見せる密室のしかけがある。
ユーモアの多くは単純なものですが、だからこそ子どもを引きつける。そのおかげで年間8万人が訪れるというから、博物館としては大成功でしょう。
創立者のひとり、N・スーサットウィリアムスさんは、こういう展示方法は、ときどき冗談の通じない人もいるので危険なやり方かもしれないといいます。
「でも笑いがあった方が、よりよくわかるから」
気候変動のようなむずかしい話をするときにも、ユーモアがあれば通じやすい。
小さなカニ博物館の成功は、大きな博物館を刺激しています。ロンドンにある国立歴史博物館の専門家は、カニ博物館のアプローチは「気づかないうちの学習」をうながし、大博物館よりも小さなスペースでより多くのことを教えていると称賛していました。
おそらく成功の原因は、創設者がカニや博物館の素人だったことでしょう。スーサットウィリアムスさんたちはもともとは児童雑誌を出版していました。でも大事なことを子どもたちに伝えるにはどうすればいいかを真剣に考えた。そしてカニを媒体とした博物館を作ろうと思い立ちました。それなら子どもたちの世界に入っていける。
「カニって、ヘンだけどかわいいから」
この発想。
変革をもたらすのは「よそ者、若者、バカ者」だと、よくいわれます。カニ博物館はそれを地で行くような物語です。
(2024年1月2日)