抗議のピンク

 ダークスーツの海に、ピンクの島。
 そこだけが浮きあがっていたと、ニューヨーク・タイムズの“政治ファッション”担当、バネッサ・フリードマン記者が書いています。
 米議会議事堂に、民主党の女性議員数十名がそろってピンクの服装で現れた。大統領の施政方針が行われる議場で、抗議の意思を示すためです(Democrats Appear in Pink to Protest. But is this really a “Barbie” moment? By Vanessa Friedman. March 5, 2025. The New York Times)。

「彼女らが着ていたのはホット・ピンク(鮮やかなピンク)やシェル・ピンク(淡いピンク)のジャケットやスカート。ナンシー・ペロシ元下院議長は明るいピンクのパンツスーツだった。ハワイ州のジル・トクダ議員はバブルガム・ピンク(きついピンク)のブレザー、襟に憲法の文言が浮いている」
 さすがファッション記者、いろいろなピンク色を書き分けている。憲法の文言というのは、政権の憲法無視への抗議です。

米連邦議会

 この日、みんなでピンクを着ようと呼びかけたのは民主党女性議員連盟でした。リーダーでニューメキシコ州選出のテレサ・フェルナンデス議員は、ラズベリー・ピンクのジャケットにコットンキャンデー・ピンクのパラッツオ・パンツ。
「強い色を着ようと決めたんです。いま起きていることは異常すぎるから」
 多様性の否定やウクライナ放棄だけでなく、多くの分野でトランプ政権は異常な命令を連発している。だからピンクなのだとフェルナンデス議員はいいます。
「ピンクは女性の色です。ねばり強さと抗議の」

 ピンク色は団結を示すことにはなるけれど、取るに足りない動きともいわれかねない。けれど議員たちは何もしないよりはいいと思ったのでしょう。抗議は色だけでもありませんでした。民主党議員や傍聴席のゲストは、手持ちのミニ・プラカードに「泥棒マスク」だの「ウソつくな」「保険制度を守れ」などと書いてかざしました。
 フリードマン記者はいいます。
「ピンクはたしかに目立つけれど、議会にはもっとずっと大きな問題がある。見てくれのパフォーマンスに溺れているのではないかという疑問も当然ながらあるだろう」

 ピンクで団結したからといって、何が変わるわけでもない。
 そう思う一方で、ピンクは強いメッセージだとも思う。アメリカはトランプを大統領に選んだ。けれど半分は反対した。ことに女性は半分以上が。
 抗議行動など気にするトランプではない。けれど見てくれを何より重視する為政者でもある。ピンクが、圧制者の心に鋭いトゲとして残りつづけますように。
(2025年2月7日)