この2年間で、統合失調症の新患は2人だけ。
北海道浦河町でこんな話を聞き、時代は変わったと実感しました。統合失調症は、もう精神病の代名詞ではなくなったかのようです。
話してくれたのは北海道浦河町の精神科クリニック、ひがし町診療所のスタッフでした。
6月4日からしばらくの浦河滞在で、ぼくは毎日診療所に通い、基本的な枠組みは何も変わっていないと安心する一方、変わったところも多々あると知りました。変わったことのひとつが、統合失調症がなくなったことです。
まったくいないわけではない。この診療所では1年にひとり。
何十人の新患のなかの、例外的な存在になりました。

どうしてこんなに減ったのか。
スタッフは「ほかの病気が増えている」、また「精神科の敷居が低くなった」などの点を指摘します。
精神科の患者は全体として減っていない。そのなかで統合失調症が減ったのは、かつて統合失調症と診断された病気がいまは別の病名になっているからではないか。あるいは他の病院、診療所で統合失調症とされた患者が、ここでは別の病名で見られている。
精神科の敷居が低くなったので、早期発見、早期対処が進み、重い症状の人が減ったということもあるでしょう。
統合失調症が減ったのは、精神病というきわめて複雑な現象を、診療所がより的確に捉えるようになった結果という気もします。

そもそもひがし町診療所の精神科医、川村敏明医師は「診断」に熱意がない。診断や病名が必要なのは障害者手帳を申請するときくらいで、診療より相談を大事にします。病気をどう治すかではなく、患者は何に困っているのか、どうすればいいかをいっしょに考える。
統合失調症は、病気とみられなくなったのかもしれない。
患者を、病気の人というよりは解決困難な課題をかかえた人と見る。病気というより症状にふりまわされている人、症状というよりは生活の苦労に追いつめられている人と見る。
だから診療所の力点は年とともに、診療より支援へ、治療より応援へと移行しています。それも、できるだけ楽しく、笑いながらの支援、応援へと。
病気が変わったのは、社会が、地域が、患者の境遇が変わったから。統合失調症はなくなったというより、多様な現れ方をするようになったのではないか。その変化に、浦河ひがし町診療所もまた、変容しながら適応しています。
(2025年6月16日)