幻覚剤を臨床へ

 アメリカ政府が幻覚剤の臨床応用を進めることになりました。
 幻覚剤の規制をゆるめ、科学者が幻覚剤を研究しやすい環境をつくる。むかしから使われてきたキノコの幻覚成分などが、いずれ精神科のさまざまな疾患に応用されるでしょう(Trump Loosens Restrictions on Psychedelic Drugs. April 17, 2026. The New York Times)。

 臨床応用の対象になるのは、幻覚剤のLSDやMDMA(エクスタシー)、また特定のキノコや植物の成分で、幻覚を起こすシロシビンなどがふくまれます。とくに中央アフリカのガボンで使われるイボガの木の成分、イボガインは特別扱いで、その研究に5千万ドルも支出されることになりました。

幻覚成分「イボガイン」がとれるイボガの木
(Credit: Giorgio Samorini, Openverse)

 イボガインは、さまざまな意味で注目されている幻覚成分です(このブログでも3月4日に伝えました)。
 アフリカではむかしから儀式に使われ、幻覚を起こす力はかなり強い。死亡事故が報告されたこともあって、日本をふくむ各国で事実上禁止されています。
 けれど使い方をまちがえなければ、この幻覚剤には可能性がある。
 戦争でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負った退役軍人の治療に、イボガインが使えることがこれまでの研究わかりました。薬物やアルコール依存をふくむPTSDの症状がこの幻覚剤で対処できる。

 こうした研究の進展をみて、退役軍人のグループがPTSDの治療にイボガインを承認するよう求めてきました。
 トランプ政権が幻覚剤の研究を進めるなんてぼくには意外でしたが、退役軍人やその支援者、右翼保守が求めているなら当然の動きでもある。
 幻覚剤の研究は科学的な考察からではなく、いわば政治的な動きとして進んでいるわけですが、背景には「規制」ならなんでも撤廃しろというネオリベラル、右翼保守の伝統的な思考があるにちがいない。

 幻覚剤は、すでにMDMAやシロシビンなどが、うつ病の治療に使えるのではないかと治験が進んでいます。
 一方イボガインは、おなじ幻覚剤でも特異な存在です。ほかの幻覚剤が、気分を高揚させるという“わかりやすい薬効”があるのにくらべ、イボガインはそれとはちがう。強い幻覚体験が、気分というより精神を変えるらしい。体験者の話によれば、イボガインによる精神の変化は幻覚を体験しているときではなく、そのあと時間をおいてあらわれる。だからPTSDの治療にも応用できるのかと、ぼくは感覚的に納得しています。
 きっとアフリカの人びとは、古来の知恵でイボガインを使い、守り伝えてきたのでしょう。
(2026年4月22日)