失読症が世界をひらく

 みんなとちがうから、私はいまの私になれた。
 失読症、ディスレクシアの科学者がそういっています。ちがっていてよかったといえる人はうらやましい(Dyslexic thinking made me the scientist I am today. By Maggie Aderin. 25 Apr 2026. The Guardian)。

 失読症でよかったというのは、宇宙科学者でBBCの解説者でもあるマギー・アデリン博士です。

マギー・アデリン博士

 子どものときは学校の問題児で、12年間で13回も転校している。自分は何もできないと思いこみ、親も混乱するばかりだった。
 頭がわるいわけではなく、本は読めなくても話すことは上手だった。自分は「特別な頭の使い方」をしていたのだと、いまならわかる。そう思わせてくれたのは、「メイド・バイ・ディスレクシア」という失読症の団体との遭遇でした。

「気持ちの持ち方がいちばん変わった。ずっと読めないことに引け目を感じ、欠点だと思ってきたけれど、それは私にとって問題ではなく恩恵だった」
 ほかの人とはちがう頭の使い方ができる。だから宇宙科学者にもなれた。
「突然、自分がなぜうまくいかないかには意味があるとわかった。・・・水平思考、忍耐力。大きな概念への偏愛。もっと別の道があるはずだという見通しの立て方。隠そうとしてきた自分の特性が、自分の底にある力だった」

 ニュートンやガリレオ、レオナルド・ダ・ビンチ、アインシュタインやホーキングもそういう力を共有していた。人類はいつも、ふつうとはちがう思考方法によって前進してきた。自分たちは閉じこもった集団ではなく、宇宙に開かれた存在だと博士はいいます。

 なんと積極的、前向きな思考か。
 けれど話の核心は、アデリン博士が失読症を克服したということではありません。博士はロンドン大学で宇宙科学の博士号まで取得したけれど、いまでも読み書きは苦手で、しょっちゅうスペルをまちがえる。そういう失読症だったからこそ、いまの自分があるといいます。
 失読症は、治すべき症状、特性ではない。

 とはいえ。
 神経多様性の象徴ともなる失読症も、それ自体が多様です。
 ぼくの友人のひとりは子ども時代に虐待を受け、解離症状のひとつとしての失読症になりました。治したくても治せないまま、おとなになって久しい。
 恩恵とはいえない失読症について、考えています。
(2026年5月1日)