薬の泥沼

 こういうのを野合というのでしょう。
「反科学」のトランプ政権が、「反精神医学」と手を結んでいる。
 より正確にいうなら、自閉症はワクチンのせいだと主張する保健福祉省長官と、精神医療はむだな薬を大量に処方していると批判する人びとが連携している。薬づけのアメリカに、これで変化が起きるでしょうか(The Strange Alliance Trying to Remake American Psychiatry. May 15, 2026. The New York Times Magazine)。

 精神科の減薬、断薬についてはすでにASCP、米精神科投薬学会がガイドラインを発表したとこのブログでも書きました(5月4日)。
 今回報道されたのは、MAHA(アメリカをふたたび健康にする)という保守派の一派が開催した、「精神保健と過剰医療サミット」という集会です。ここでロバート・ケネディ保健福祉長官が、精神医療についてめずらしくまともなことをいいました。
「精神科の薬は選択肢のひとつにすぎない。多くの患者が薬の害を十分理解せずに服薬しているが、薬を治療の“デフォルト”とみなすべきではない」
 精神医療が薬偏重になっているという批判です。良心的な精神科医がかねてから指摘してきたことでもありました。

 アメリカでは、6人に1人が抗うつ剤を飲んでいる。
 これは、病気でないのに病気と診断されたり、ただの不安や、子どもの多動といった「日常的な状態」にまで抗うつ剤が出されているからだといわれます。そうした傾向を、巨大製薬企業が広範な、また巧妙な宣伝戦略であおっている。
 抗うつ剤にかぎらず、向精神薬はあまりにも安易に使われていると感じる人が増えました。向精神薬のなかには、性的能力を不可逆にそこなわせるものもあるなど新たな副作用があることも指摘されています。

 一部の精神科医だけでなく、当事者も声をあげている。
 元患者のローラ・デラーノさんは、向精神薬で破滅的な害をこうむったといい精神医療を強く批判してきました。トランプ政権になり、風向きがかわったと感じています。「精神保健と過剰医療サミット」では、共和党議員とともに減薬を訴えました。
 精神科の減薬、断薬運動は成果をあげはじめている。
 ケネディ長官率いる保健福祉省は、精神科の患者が減薬するなら、医療保険で支援したいと表明しています。保健制度が変われば精神医療も変わるでしょう。
 ワクチンや科学を否定するケネディ長官はこれまで保健行政を混乱させてきたけれど、ここでは見るべき業績を残せるかもしれません。
(2026年5月20日)