インティマシーの経済

 アテンション・エコノミーの次は、インティマシー・エコノミー。
 AI研究者がこんな議論をしています。
 アテンション・エコノミーは、ネット上で人の注意を引きつけるのを商売にすることです。依存症を起こすSNSはそういう経済のもとにある。
 それは序の口、こちらが本命というのがインティマシー・エコノミーです。どういうことでしょうか(Gen Z is living in an intimacy economy, where connection is commodified. By Alice Lassman. 21 Jul 2026. The Guardian)。

 直訳すれば「親密さの経済」。
 アテンション(注意)は、利用者の目を引きつけ、延々とネットを見ずにいられないようにすることです。これに対してインティマシー(親密さ)は、AIが利用者の心の奥深くに入り込み、親しい友だち、仲間になってしまうことです。ネット上に分身ができるようなものでしょう。その分身に、人はだれにもいえないことでもいえる、相談できる。
 この親密さが、依存症よりも高度な「結びつき」をもたらすビジネスになっています。

AI研究者のアリス・ラスマンさん(ガーディアン紙)

 インティマシー・エコノミーで、人はますますAIに頼り、現実の人間との関係が持てなくなると、AI研究者、アリス・ラスマンさんは指摘します。
 30歳前後の、いわゆるZ世代に属するラスマンさんは、自分たちは「デジタル・ネイティブの最初の世代で、人間同士の親しい関係を経験した最後の世代だ」といいます。アテンション・エコノミーには耐性があるけれど、インティマシー・エコノミーは、この自分たちですら「あらがいがたい」ものがある。

 悩みごとや困りごとなど、あらゆる人間関係の問題、また自分自身の思いをAIに話す。AIは十分にわかってくれたうえで、自分にあったふさわしい答えを出してくれる。会話を打ち切ることはない。家族や仲間にいえないことも、AIにならいえる。AIは的確に対応し、なぐさめ、納得させてくれる。何度でも、午前2時であっても。
 ラスマンさんの友人知人は次々と、人間ではなくAIを頼り、AIなしではいられなくなっている。

 けれどサスマンさんは、インティマシー・エコノミーに抵抗しなければならないといいます。人間のもっとも大事な価値、「混乱した複雑さ」を守るために。人間が、人間との関係を失わないために。
「親密さをAIに任せてはならない。私たちはリテラシーを身につけるべきだ」
 わかりやすい親切なAI。そんな安物にだまされはいけない。
 この主張はぼくには、「少数派になろう」という呼びかけに聞こえます。
(2026年8月10日)