治療抵抗性うつ病

 うつ病にはさまざまな治療法がある。
 抗うつ剤だけでなく、それ以外の薬剤も使われるようになり、磁気を使った治療法も登場しています。
 うつ治療の変遷に、いろいろなことを考えました(When Depression Resists Treatment. By Melinda Wenner Moyer. Aug. 20, 2026. The New York Times)。

 うつ病の治療は通常、抗うつ剤ではじめます。4週間から6週間、処方された抗うつ剤を服用し、効果がなければ別の抗うつ剤に切り替える。これをまた4週から6週服用し、それでも効果がみられないと「治療抵抗性うつ病」(treatment-resistant depression)とされる。治療はむずかしくなるけれど、あきらめることはない、複数の薬剤、治療法を併用すれば回復の可能性はあると精神科の専門記者は書いています。

 5年前の研究によれば、アメリカでうつの治療を受けている人の31%が治療抵抗性うつ病になっていました。日本もほぼおなじらしい。
 治療抵抗性うつには、単一の効果的な治療法はありません。カリフォルニア大学の専門家は、抗うつ剤に加え、うつ以外で使われる抗精神病薬やリチウムを処方するといいます。

 またTMS(transcranial magnetic stimulation)、経頭蓋磁気刺激法という治療法も併用されることがある。ヘッドセットのような器具で患者の脳に磁気を加える方法で、二重盲検法による治験では、TMSを受けた患者は受けなかった患者の3倍近い寛解率だったというから注目すべき効果でしょう。
 抗うつ剤とともに抗精神病薬を併用したり、麻酔薬の一種「ケタミン」を使う方法も導入されている。シロシビンやイボガインなどの幻覚剤を使う研究も進んでいることはこのブログでも伝えました(4月22日)。

 こんな情報を見ていると、うつの治療は着々と進んでいるかに思えます。
 けれど現場には、大きな変化が起きているという実感は乏しい。新薬、新治療法が効果的なのは一部の疾患の一部の患者にすぎないのではないか。一口にうつといっても、PTSD後のうつ治療のむずかしさは以前と変わらない。
 一方、精神科の病気はさらに複雑化多様化し「わけのわからない」患者が増えている。
 治る部分もあるけれど、治らない、治せない「わけのわからない」部分も増えている。精神症という疾患、いや疾患というより人間のあり方は、全体としては何も変わっていないのではないか。ただその表現型が変わっているだけではないのか。
 時代に合わせて。
 先週から久しぶりに北海道浦河の精神科診療所に来て、そんなことを思っています。
(2026年8月28日)