この1年で、ロシアの独裁体制は劇的に強化された。
こんな分析が目に止まり、衝撃を受けました。
プーチン大統領は戦争を機に反西欧・反民主主義プロパガンダを一気に強め、ロシア社会を作り変えた。戦争の長期化はロシア社会を弱めるより、むしろ“プーチン化”を完成させ、イデオロギー的には強化したというのですね。80年前の軍国日本もこうだったのでしょうか(One Year Into War, Putin Is Crafting the Russia He Craves. Feb. 19, 2023. The New York Times)。
ニューヨーク・タイムズの、ベルリンとモスクワの特派員が書いた“まとめ記事”です。
「プーチン大統領をウクライナ侵略に駆りたてた怒りと被害妄想、帝国主義の思考は、いま深くロシア人の暮らしにしみこんでいる。ロシアの指導者はかつてなく国内の支配を固めた」
社会のすべての場で、戦争への賛美、愛国主義、兵士への貢献が強調される。たとえば学童は空き缶を集め、ろうそくを作って塹壕で戦うロシア兵に送る。これは「世界の支配をたくらむナチス侵略者との戦い」だと教えられる。
鬼畜米英、撃ちてし止まむ、ですね。世はプーチン支持一色になり、反戦、反体制の声は徹底的に弾圧される。
タイムズ紙の取材に、ロシア財界の富豪で超保守派のコンスタンチン・マロフェエフさんがいいました。
「ロシアのリベラリズムは永久に死んだ、ありがたいことに。戦争が長引けば長引くほど、ロシア社会からリベラリズムと西側の毒が一掃される」
彼にとっては、戦争が長引いたからこそロシア社会は根本的に変革された。プーチン大統領の夢も実現したのです。
「これが電撃的な勝利だったら、何も変わらなかっただろうよ」
マロフェエフさんのような保守派はずっとプーチン大統領をもり立て、ロシアの伝統への回帰、大ロシア帝国の復興を願っていた。それをじゃまするウクライナなんて、「悪の西欧」「ナチスのNATO」の手先でしかない。
ニューヨーク・タイムズの記事は、そういうロシア社会が外部から断絶され、いかにロシア軍の「戦果」を信じて妄想の世界に入りこんでいるかを、町中のいくつもの情景から伝えています。ロシア国民の多数は、すでに後もどりできないところにまで軍国主義に凝り固まっているのでしょう。
それを読みながら、ロシアは北朝鮮化に向かっているんだろうなと思いました。どんなに不自由で窮屈で孤立していても、決して崩壊しない強靭な独裁体制。その妄想世界と向き合わなければならないんだから、ウクライナの苦難は想像を超えます。
(2023年2月20日)