スマホをめぐる論争でいまアメリカで一番の話題は「学校でのスマホ禁止」でしょう。
教室だけでなく、学校内では丸一日、休み時間もスマホを禁止する。そういう高校がフロリダ州オーランドに現れました。昼食時に全生徒がスマホなしで談笑しているというシュールな光景が、各地に広がろうとしています。
もちろん表面上の理由は、生徒が授業に集中するためです。
でもその奥には、ますます深まる若者とソーシャルメディアの関係への強い懸念がある。若者のうつや不安が強まり、自殺が増えているのはソーシャルメディアの影響が大きいと、バイデン政権の医務総監が警告を発したことはすでに書きました(5月25日)。子どもたちの「スクリーン・タイム」を、禁止したり制限したりする動きも進んでいます(5月17日)。
スマホがなければ、子どもたちはもうちょっと伸び伸びできるんだろうか。
アナログ世代のぼくは、そんなことを考えてしまいます。でも、問題の根はもっとずっと深いと論じる人が出てきました(Children today have less independence. Is that fueling a mental health crisis? October 24, 2023. The Washington Post)。
ボストン・カレッジのピーター・グレイ教授ら、心理学、人類学などの専門家グループです。
彼らは、おとながますます子どもの自立と自由を奪うようになった、それが若者のうつと不安、自殺の増加を招いている、と主張します。
小児科学会誌に掲載された主張をぼくなりに言い換えると、おとなの過干渉が子どもを弱めている、あるいは子どもがおとなになるのを阻んでいる、管理をやめよ、子どもをもっと子どもだけで勝手に遊ばせろ、ということです。
感覚的には、すなおに納得できる議論です。
過干渉は過去半世紀、一貫して強まっています。ぼくらは、ぼくらの親ほど自由で自立していなかった。あるいは放任されていなかった。同様に、ぼくらの子どもはぼくらよりさらに自由を失い、自分たちだけで勝手に遊ぶことを許されなくなっている。それに合わせて若者のうつ、不安、自殺はこの半世紀増えつづけている。これはスマホやソーシャルメディア以前の問題だ、というのがグレイ教授たちの主張です。
アメリカではいま、子どもをひとりで遊びに行かせると、「親が送り迎えをしていない」と警察に通報する人がいるそうです。安全を守るという名目で、子どもの自立は際限なく奪われている。つねに、どこにでもある「見守り」という名の監視、管理。
安全になればなるほど強まる子どもの不安、うつ、自殺への傾斜。
このパターンには既視感があります。よかれと思ってしていることが、逆の効果を生む。精神科の世界でしばしば起きている現象ではないか。そんなことを思いながら、グレイ教授らの主張をたどりました。
(2023年11月2日)