原因のその先に

 先月アメリカで、精神障害者の犯行とみられる大量射殺事件が起きたと書きました(10月31日)。
 その後の捜査と報道で、事件の概要がかなり明らかになっています。
 容疑者は数か月前から精神病の悪化を示す兆候がありました。家族も職場も警察も、それぞれさし迫った危険を感じていたのに、事件を防げなかった実態が浮びあがっています(The Signs Were All There. Why Did No One Stop the Maine Shooter? Nov. 2, 2023. The New York Times)。

 事件は10月25日、メイン州ルイストンで起きました。陸軍予備兵のロバート・カード容疑者(40歳)が町の2か所で銃を乱射し、18人を射殺、その後自殺したと見られています。
 警察は当初から、容疑者には妄想や幻聴があったといっていました。けれど調べればそれ以上に、さまざまなエピソードがあったとタイムズ紙は伝えています。

 カード容疑者のきょうだいは警察に、容疑者は最近ひどく酒を飲み、「誰かを射たなければならない」といっていたと話しています。5月には、離婚した妻と息子が、本人の妄想と怒りが強くなり、きょうだいの家から十数丁の銃を持ち出したと警察に通報しました。
 また7月、軍の訓練場でほかの兵士が自分を「幼児性的暴行者」といっていると怒り、トラブルになっています。このとき精神科病院に入院し、2週間の治療を受けました。
 さらに9月、車で移動中、同乗した兵士に殴りかかり「射つぞ」と脅している。この兵士はメールで上司に「彼は頭が混乱している」「切れて大量殺人を起こすにちがいない」と報告しています。メールのコピーは、事件の詳細な報告とともに軍から警察に送られました。

 これらいずれの出来事に際しても、警察は本人の身柄を確保し、精神科の治療を受けさせるなどの措置をとっていません。危険な兆候だけで市民の自由を侵すことはできない、警察はあくまで「事件が起きてから動く」とでもいうかのように。
 これに対し、自傷他害の多くの明白な兆候、大量殺人のさし迫った危険があったのに「システム」は機能しなかったと、強い批判も起きています。

 ニューヨーク・タイムズは、こうまとめていました。
「事件は、銃まみれのこの国には精神保健の不備があり、法規制のゆるさと、個人の自由を脅かしてはいけないという気風があって、凶行を防げなかったことを示している」
 ぼくは、とくに問題なのが「個人の自由を脅かしてはいけない気風」だろうと思っています。ずいぶんやわらかい言い方だけれど、これは「勝手気まま」「やりたい放題」と紙一重です。自由と傲慢が分かちがたく入り混じった、アメリカの地方にまん延するこの気風が変わらないかぎり、事件は起きつづけるでしょう。
 これは精神障害の問題ではないと思います。
(2023年11月3日)