不穏なリーク

 北朝鮮は“核大国”、どうにかしなければ不測の事態が起きると専門家が警告しています。
 あんな国、どうしようもないでしょと、あきらめてるあいだに事態はさらに深刻になっている。考えたくないけれど、考えないわけにはいかない。何をどう考えればいいのか、ひとつの筋道が提示されていました(A Solution on North Korea Is There, if Biden Will Only Grasp It. By John Delury. March 16, 2024. The New York Times)。

 提案してるのは、韓国の延世大学にいるジョン・デルーリ教授です。
 教授によれば、北朝鮮はすでに50発の核弾頭を持っていると推定される。これは恐るべき破壊力です。しかも独裁者、キム・ジョンウン総書記は、これまで国是だった朝鮮半島の“平和統一”を破棄し、戦争が起きたら北は南を完全に占領し支配下におくと宣言している。そしてミサイルを発射するなど、韓国やアメリカを挑発しつづけています。

 北は朝鮮半島沖の韓国領の島を占拠するなど、限定的な戦争に出るかもしれない。停戦ラインの変更など、さまざまな要求を突きつけてくる可能性もある。武力抗争は、ちょっとした誤算で全面戦争に発展しかねません。
 いくらなんでも、北は戦争にまで踏みきらないというのが大方の見方でした。しかしロシアのウクライナ侵略やハマスのイスラエル攻撃のあとでは、楽観論は空疎な幻想に思えます。おまけに彼らは、理論上アメリカ本土に到達する核兵器を持っている。

 北朝鮮を非核化する戦略は、もはや現実的ではないととデルーリ教授はいいます。
 ではどうするか。
 とにかく話し合いをはじめるしかない。話し合いはバイデン大統領とキム・ジョンウン総書記のふたりにしかできない。バイデン大統領は北朝鮮特使を任命し、まったく新しいことばで大胆な提案をするべきだ。北朝鮮は経済的に疲弊しており、中国との関係がギクシャクとしていることを考慮すれば、新しい話し合いの形を作る余地があるとデルーリ教授はいいます。

 この筋道はしかし、ちょっと楽観がすぎるんじゃないか。
 実現性はきわめて少ない。北に譲歩するような大胆な提案をしたら、バイデン大統領は失脚です。かといってトランプ政権になったら、事態はもっと危険になるでしょう。
 一方、ぼくはこうした提案がなぜ出てきたかを考えます。すぐ思い返すのは、1月にぽっと出てきた「北朝鮮が戦争に踏みきるかもしれない」という報道でした。
 北朝鮮にくわしい西側の専門家が報道の出元らしい。おそらく韓国かアメリカの情報機関がなんらかの動きを察知し、それが意図的にリークされたにちがいない。その延長上で、デルーリ教授はあえて実現不可能な提言をしたのではないか。
 提言されたからといって、ぼくは逃げることを考える以外どうしようもないのだけれど。
(2024年3月20日)