醤油の瓶を持参する

 フィリピンで、「プラスチック・ゴミ・ゼロ」を実現した小売店があります。
 プラスチック容器やポリ袋の商品を売らない。客は空き瓶や空き缶を持ってきて、それに醤油や砂糖を入れてもらう。だれもプラスチックを捨てなくなります。
 実験的な店舗だけれど、もっと増えないものでしょうか(Soy sauce refills and reused jars: can Philippines’ tingi culture hold back deluge of plastic waste? 31 Jul 2026. The Guardian)。

フィリピンの「サリサリ・ストア」
(Credit: Beegee49, Openverse)

 プラスチック・ゴミを出さないのは、フィリピンのマラボン市にある「ティンギ・ティンダハン」という小売店です。
 フィリピンにはサリサリ・ストアという、コンビニより小規模な小売店が全国どこでもある。ティンギ・ティンダハンは、サリサリ・ストアのように見えて、決定的にちがうところがある。客は、買ったものを入れる容器を持っていかなければならない。醤油を買おうと思ったら空き瓶、小麦粉を買うなら空き缶が必要です。
 めんどうなようでも、容器持参なら少量でも売ってもらえる。むだな買い物をすることがありません。

 商品の多くはガラスの容器に入れてあり、砂糖や塩はそこからすくい出して量り売りする。液体は容器の下にある蛇口から、やはり量を測って売ります。醤油を一瓶500CCじゃなく、今夜必要な50CCだけ買うこともできる。
 容器を再利用するから、客はプラ・ゴミを捨てない。開店してから1年で、ポリ袋14万5千個を使わずにすんだ勘定になるといいます。

サリサリ・ストア (Credit: Glen from United States, Openverse)
(「ティンギ・ティンダハン」は同様の小売店だがプラスチック・ゴミを出さない)

 ティンギ・ティンダハンは、なぜ可能だったのか。
 ひとつには、公的な支援があったからでしょう。マラボン市議会で環境問題を担当するカテー・ノラスコ議員が実現に尽力しました。MEFという環境保護団体も積極的に支援している。MEFのレジーン・ナイブさんは「私たちは、容器の再利用は高くつくという常識に挑戦したかった。高くつくのではなく、消費者の選択の幅を広げたんです」といっています。

 プラスチック問題に取りくんでいるのは先進国、遅れているのは途上国というイメージはまちがいでしょう。
 とはいえ、肝心なのは進んでいるか遅れているかではない。
 いまの日本では、買い物客に「醤油の空き瓶、持ってきてね」とはいえません。そういえるためには、住民にそれだけの関係性があり、地域力というかコモンの感覚とでもいうべきものがなければならない。
 キュウリ1本までプラスチックで包むのは、病的な衛生観念の表れではないか。フィリピンの人びとはもっと大事な、別の世界観を生きているように思えます。
(2026年8月3日)