最後は民の力

 ロシアがウクライナに侵攻し、第二次大戦以来の大規模な戦争がはじまってちょうど1年になります。この1,2週間、多くの“まとめ記事”を目にしました。
 そのなかでぼくにとって印象的だったのはニューヨーク・タイムズの分析だったと20日に書きました。戦争が長期化し、プーチン体制は揺らいでいると思ったら実態はどうも逆らしい。戦争が長期化したからこそ、プーチン大統領は時間をかけて国内を戦時体制一色に固めることができた。かえって権力基盤は強化されたというのですね。
 これでは、先は長いと思わなければならない。

 長期化すれば西側は不利です。だから軍事支援を急ぎ戦況を打開しようとしている。ウクライナは春の訪れとともに、西側が供給した最新兵器とともに攻勢に出るでしょう。それでロシア軍に占領された領土をある程度取りもどせるかどうか。それが今後10年、100年の世界のあり方を変える。

 と、えらそうにいうけれど、もちろんタイムズ紙やポスト紙の受け売りです。
 今週は受け売りできそうな記事がもうひとつ、目に止まりました。
 アメリカ陸軍欧州司令官だったマーク・ハートリング将軍の、ワシントン・ポストへの寄稿です( Why Ukraine will win the war. By Mark Hertling. February 20, 2023. The Washington Post)。

 彼の寄稿は「ウクライナはなぜ勝つか」というタイトルなので、単細胞な軍人の思いこみかと勘違いしそうになるけれど、そうではない。
 米陸軍の中心にいた将軍は、自分自身の経験から証言します。かつてウクライナ軍とともに訓練し、またロシア軍の演習も見たが、この二つは本質的にちがう組織だと。
「戦争がはじまったその日の夜、私は同僚にいった。ウクライナは力以上の戦いをするだろう。ロシアは困惑するだろうと」

 1年にわたる戦争の数々の局面で、ウクライナはロシアにはない「適応力」を発揮しつづけた。戦況に応じてどんどん変わるウクライナ軍、上意下達で硬直した組織のまま、変わることのできないロシア軍。このちがいが、力以上の戦いをするか、剛力を発揮できず自壊するかのちがいになっているとハートリング将軍は指摘する。
「軍隊はその国の社会のあり方と価値を反映するものだ。もちろん装備や思考、訓練や指導力は重要だが、戦闘力の本質は社会のあり方からやってくる。プーチンの強権的な私有政治は、これまでのところウクライナの敏捷な民主主義に対抗できなかった」

 軍事力といえども、それを決めるのは民のあり方であり、日常なのだということでしょう。
 これまでのところ、という条件付きではあるけれど。
(2023年2月24日)